万物流転 | ナノ
50.めいしん5
来たる十一月二十四日。第一の課題は今日の午後からだ。そのため授業は半日で終わる。私は今朝のアラスターとのことを思い出しながら競技場へと足を進めていた。今考えても、やはり彼の受け答えは酷いと思うのだ。

私は、午前の授業終了後、DADAの教室へ行きアラスターにあの力を人目に触れさせても良いかと相談しに行った。あの力とは、言わずもがな忍術のことで今回の課題では水遁系の術を使いたいと思っていたのだ。

もちろん、杖を用いたあたかも魔法の様にして使用するつもりであるが、あれらは特殊な為、目敏い人が見れば私の使うそれが魔法ではないことがバレてしまうかもしれないという危険性があったのだ。

部屋のドアをノックしても、中からの応答はなく仕方なしに名乗りながら部屋へと入室すると「誰だ!誰の許可を得て、わしの部屋に入った!出て行け!」と姿無きアラスターの怒声が飛んできた。確かに何の返答もなく入室した私が悪いのは承知するが、けれどもしかし、彼には『魔法の目』があるではないか!

扉の前に馴染みの私が立っており、部屋の中へ入ってきたことくらい、いくら何者かに襲われてそういうことに敏感になっていたとしても、怒り過ぎではないか?「失礼しました!」私は彼に負けないくらいの大声を出して、イライラしながら入ってきた扉から廊下へ出て、バタン!扉が壊れそうなほどの音を立ててドアを閉めた。

最近のアラスターは、やはり皆が言うように少し可笑しいのかもしれない。以前の彼は、私を温かく――時には強引なまでに――迎え入れてくれたし、どんなに忙しい時だって、私のためにわざわざ時間を割いて話を聞いてくれた。それなのに、なんで?私、何かしてしまった?手紙では、私の働きぶりを珍しく褒めてくれたじゃない!

悔しさと悲しみと怒りが、心の中でぐちゃぐちゃに混ざり合い、私はぎゅっと手のひらを握り締めた。すると、そんな私の肩にポンッと手が乗せられた。それはたくましく、手の甲にはまだ新しい火傷の痕が残るその手。

「どうしたんだい?暗い顔をして…緊張しているの?」
「ちゃ、チャールズ先輩!」

にっこりと、人を落ち着かせるような、安心させる温かい笑みを浮かべたチャールズ先輩が後ろに立っていて、私は思わず彼の丈夫でしっかりとした胸に飛び込んだ。彼は慌てず、ぎゅっと抱きしめてくれて、大人の余裕と言うものを感じさせた。

「久し振りだね。僕の手紙は役に立ったかい?」
「はい、ありがとうございました。とても、とても勉強になりました」

私の視線に合わせるように、ちょっと屈んでくれた先輩は、今も柔和な表情を浮かべている。「どのドラゴンも元気いっぱいだ。持てる力を全部出し切って、思う存分戦ってくれよ」ぽんぽんと私の頭を撫でた彼は「ほら、君の相方が入り口で待ってるよ」とテントの方を親指で指していた。

くるっと振り返ると、右手を上げて手を振るセドリックの姿が見えた。さっきまでのイライラやもやもやが払拭されて、私は気持ちをリセットすることができた。

「私、頑張ります!見ていて下さい」ニッと笑った私に対して「あぁ!気を付けてね、レイリ」と片手を上げ応えてくれたチャールズ先輩に感謝をして、私はテントの方へと駆けた。

「レイリ、今の人ってもしかしてチャーリー・ウィーズリー?」
「そうよ。あれ?セドリックって、彼と面識があったかしら?」

「いや。話したことはないけど、クィディッチの先輩達から『グリフィンドールには伝説のシーカーがいた』って言うのを何度か聞いたことがあって…」

わくわくしたように目を輝かせたセドリックは、ぎゅっと拳を握って、熱心に私へ説明をしてくれた。

「彼、プロのチームからスカウトがきて、ナショナルチーム入りも夢じゃないって位の腕前だったのに、他にやりたいことがあるからって、それを辞退したそうだとか」

「へぇ…私の知ってるチャールズ先輩は、ドラゴン好きのお兄ちゃんって感じだったから、初めて知ったわ。 ねぇ、昨日話したドラゴンキーパーの知り合いって覚えてる?」

「あぁ、レイリにドラゴンについて助言を何個かしてくれた人のことでしょ?」

そこで私が得意げに「そのドラゴンキーパーって言うのが、チャーリー・ウィーズリーなのよ!」と言うと、興奮した様子のセドリックは「え!レイリって、そんな有名人とも知り合いなの!すごいよ!」と羨ましそうに言った。

20130908
20150409 修正
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