万物流転 | ナノ
49.めいしん4
「それに、多くのドラゴンは口や鼻から炎を吐くし…それに、」
「鋭い歯と爪があって、身体は鋼のような硬い鱗に覆われてる。そうでしょ?」

「えぇ、そうよ。ハッフルパフに10点」

そこで茶目っ気たっぷりな笑みを浮かべた私に、セドリックがフッと声をもらして笑った。私はチャールズ先輩が教えてくれたことを思い出して、再び口を開く。

「知り合いにドラゴンキーパーをやっている人がいるのだけど、その人から聞いた話によれば、一頭の成獣ドラゴンにつき、ベテランのキーパーが七、八人で暴れたりするのを抑えてるそうよ」

セドリックは口を結び、何やら深く考え込んでいる様子だ。「だから、なんの経験も持たない私達がたった二人で『失神呪文』を唱えたとしても到底歯が立つとは思えないの…」と伏し目がちに言うと、ポンッと頭に手を乗せられた。

「いいことを思い付いた。…耳を貸して?」

ぐっと引き寄せられて、この小部屋には私と彼の二人しかいないのに内緒話みたいにこしょこしょと喋るセドリック。彼が話していると、時々耳に彼の息がかかってくすぐったくなった。彼の提案した作戦はとてもシンプルだった。あぁ、なるほど!

「陽動作戦ね!」

「その通り!僕が囮になって、ドラゴンの注意をそらせておくから、その間にレイリが攻撃して。僕は君の攻撃が成功したら、その隙をついて、さらに追い打ちをかけるから…そうすれば、」

「ちょっと待って!囮役は、私が引き受けるわ!私の方が身体が小さくて身軽だし、小回りが利くと思うの」

「え!…でも、危険だよ!レイリにもしものことがあれば、僕は一体どうしたらいいんだ?」

狼狽え眼のセドリックに「もしものことが起こらないように、二人で力を合わせるのよ。それに、セドリックは私に怪我をしてほしくないでしょう?」と問いかければ、こくんと頷く。灰色の瞳が不安げにうろうろと私の顔辺りを彷徨う。

「私、あなたの役に立ちたいの。ほら、あなた言ったでしょ?『僕に君の力を貸して欲しい』って…私、こう見えても、学校を卒業したら闇祓いになろうと思ってるのよ」

「レイリが、闇祓いに!?」

「オーラーが単に学校の成績優秀者であるだけじゃ、採用されないってことは、あなたも知ってるでしょ?」

「そうだけど…、でも!」

不敵な笑みを浮かべながら「秘策があるの…」と今度は私が背の高い彼の耳元へ、背伸びをしながら口を寄せ、ひそひそと呟く。私が話し終えるまで、セドリックはじっと耳を澄ませてくれた。そっと身体を離しながら、息のかかりそうなほどの近距離で、私は彼の顔を見上げる。

「私は、セドリックを信じる。だから、あなたも私を信じて」

真剣な目をして彼にそう告げると、灰色の瞳は真っ直ぐ私を見つめてブレることは二度となかった。「その作戦で行こう。それじゃあ…改めてよろしくね、レイリ」私は差し出された彼の手を握り「こちらこそ。よろしくお願いします、セドリック」微笑み合った。

勇猛果敢が代名詞のグリフィンドール。我が寮、グリフィンドールは、勇気を何よりもよき徳とする。ここで、私が囮となって立ち向かわなければ、一体どこで彼の手となり足となり、延いてはセドリックの力になり、彼の役に立てるのだと言うのだろうか!

今回の課題ほど、獅子寮の私に打ってつけのものはないだろう。私は、寮に戻り、ベッドに横になってからも闘志を燃やし続けたのであった。

20130907
title by MH+
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