万物流転 | ナノ
51.めいしん6
テントの中には、ハリー達以外の選手とその助手が揃っていた。クラムは、用意されているベッドの端に腰掛け、彼の助手は落ち着きなく彼の前を行ったり来たりを繰り返す。フラーは、横から垂れる髪の毛を撫で付けたり、椅子に座る妹の髪の毛を結ったり解いたりしていた。

セドリックは自分の陣地へ案内すると、仕切りのカーテンを閉めて私をベッドに座らせた。彼は椅子を私の前に持ってきて、今回の作戦の最終確認を行った。テントの外にマクゴナガル先生の声が聞こえて、ハリーとロンがこちらへ到着したのが分かると、セドリックも話を終えた。

そわそわとした、落ち着きのない時間が流れる。テントの横を大勢の足音やら声やらが通り過ぎて行き、観客席の方からは、ダンブルドア校長先生のアナウンスが聞こえてきた。クラムはまるで石のようにその場から動かなかった。その頃になると、彼の助手も彼の隣りに腰を落ち着けていた。しかし、右足だけは、タンタンタタンと軽快なリズムを刻む。

妹の髪の毛をいじることにも、緊張を紛らわすことが出来なくなったフラーは、彼女達のために用意された簡易ベッドの周りをくるくる歩き出す。妹のガブリエルは椅子に座ったまま、中級魔法の本を読み出した。けれど、その表紙の文字が逆さまなのを私は発見して、やはり緊張しているのだなぁと思った。

(ねぇハリー、ロン…そこにいる?)

何処やらからハーマイオニーの声がして、その声に肩を飛び上がらせたロンはきょろきょろと辺りを見渡した。ハリーが音源を見つけて、ロンの腕を掴み二人一緒に反対側の入り口へと小走りで移動した。(ここにいるよ)とハーマイオニーの声に向かって語りかけるハリーは、強張っていた表情がちょっと緩んでいた。

(気分はどう?大丈夫?)
(だいじょうぶじゃ、ないよ!)
(ロン、声が大きいよ)
(ね、ねぇ!もう一度考え直してくれよ!)

ロンが情けない声をして、テントに縋る。聞き耳を立てると(それは無理なお願いよ、ロン!あなたの代わりにポリジュース薬で私が出場するなんて無理に決まってる!)とハーマイオニーが非常に残念そうな声を出して彼を窘めた。

私は、部屋に置いてあるテーブルに近付く。オレンジにリンゴのジュースなども用意されていたが、私は少しでも彼らに落ち着いてもらいたかったので、温かいカモミールティーを七つのカップに注いだ。一つ目のカップをセドリックに渡すと、椅子に座っていた彼が「ありがとう」と受け取ってひとくち口に含んだ。

湯気の立つ四つのカップをふわふわ宙に浮かせて、それぞれをクラム達やフラー達へと配った。青い顔をしたフラーと緊張で強張った顔のガブリエルはすぐにそのカップへ口をつけた。ダームストラングの二人は、最初警戒したように受け取ったカップを眺めていたが、姉妹がそれを飲んでホッとした顔つきになったので、二人ともほぼ同時にぐいっと呷った。

(ハリー、まず集中が大事よ。そしてその後…)

ハリーが「ドラゴンと戦う」と呟いた声がやけにテントへ響き、その瞬間、誰も息をしていないかのように静かになった。テントの外からハーマイオニーの息を呑む音が聞こえてきて、バサッとテントが揺れた瞬間、彼女がハリーに抱き着いた。その瞬間、バシャッ!という音と白い光が辺りを包む。

「若き恋人たちね!うぅ〜ん…感・動・的!」

テントの中に新しい声が響いた。その声の主はリーター・スキーターだった。真っ赤に染められた爪で唇を弾き「ハリーは課題直前のテント内で、噂のハーマイオニー・グレンジャーとの愛を再確認した!」と興奮に鼻を膨らませながら言う。それを彼女の黄緑色の自動速記羽根ペンがすらすらと大きなメモ帳に書き綴る。

カァッと赤くなったハーマイオニーは、急いでハリーから離れたが、時すでに遅しというやつで、ハリーと彼女がひしと抱き合っている動く写真は、スキーター記者の手の中だった。

にやりといやらしい笑みを浮かべながらロンに話しかけるスキーターに、彼の写真を撮るカメラマン。ロンは口を開きもせず、じっと彼女を睨み付けていたが、そんなことはお構い無しに「親友であり助手のロナウド・ウィーズリーくんは、そんな彼ら二人の仲睦まじい姿を恨めしそうに見つめている…」彼女が呟く言葉を羽ペンはさらさらとメモ帳の続きに書き足して行く。

「うぅ〜ん!恋のトライアングルは、誰にも止められないざんすねぇ」とはぁはぁしながら喋るスキーター記者には、テント内にいる生徒達はドン引きだった。

20130908
title by MH+
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