万物流転 | ナノ
48.めいしん3
ハーマイオニーと協力して、談話室をもぬけの殻にしたのは昨日の夜のことだった。ハリーは、無事シリウスと水入らずの時間を過ごすことが出来ただろうか。どうやら彼は、ハグリットに何らかの用件で呼ばれたらしく、私たちが無人の談話室を完成させた頃にはその場にいなかった。

眠たい目を擦るハーマイオニーと一緒に、女子寮へと続く階段を登り、その日は就寝。そして、次の日である第一の課題を明日に控えた月曜日の朝、今日はみっちりと朝から変身術に呪文学があるので、重たい鞄を引き摺りながら大広間へと向かった。

ジョージは私にチャールズ先輩からの手紙が届いても、相変わらず、機嫌が良さそうで何よりだった。助手である私は、期末テストが免除されようとも、勉強の手を休めるようなことはしたくはなかった。テストの日程をずらして受験することは可能かなど、寮監のマクゴナガル先生と相談もしつつある。

夕方、図書館にいると例の三人組が頭をくっ付け合って、一冊の巨大な本と格闘しているのを見た。きっとあれは、魔法生物学に関する本に違いない。以前私も、ドラゴン好きのハグリットからあの本をすすめられて読んだことがあったが、ページを捲るのにあんなに骨を折った本は未だかつて出会ったことがない。

入り口の方が騒がしいと感じて本から顔を上げると、正面の席が引かれてそこにクラムが座った。「あら久し振りね」と声をかけると、こちらにちらっと目を向けた彼は、私よりもずっと小さな声で「ウチハは、聞いた?…第一の課題のこと…」と口をもごもごさせながら言った。

私は自分が既知であるのを表には出さず「クラムは何か知っているの?」と返すと、彼は「ドラゴンだ」と呟いた。その目にはうっすらと恐怖の色が滲んでいる。「ぼく、箒しか乗れない。ぼくはクィディッチが出来れば、それでいい。のに、カルカロフ先生が、ぼくの出場を望んだんだ」と不安げに漏らす。

私が何も言わずにいると、チラチラと横目で何かを熱心に見始めたクラム。その視線の先には、ハリー達がいて、彼はそれから悩ましげに溜息を吐いた。「どうかしたの?」私が尋ねると「な、なんでも!」彼はポッと頬をピンクに染めて落ち着きなく手元の本をぱらぱらと捲った。

そんなクラムをひとり置去りにして、入り口の方が騒がしいなぁと思い、私は席を立つとその付近にはクラムのファンである女の子達がこちらの様子を食い入るように見つめており、うっとりした目で彼の猫背を見つめていた。私はそそくさと図書館を後にし、しばらく道なりに歩いていると後ろから呼び止められた。

「レイリ!捜したよ」
「あぁ、セドリック!…どうしたの?」

息を切らせたセドリックが私の肩を掴んだ。彼は、きょろきょろと周りを見渡して、声を落としてから「ハリーが教えてくれたんだけど、第一の課題はドラゴンだって」と囁いた。「ドラゴンと戦うのかしら?…なんの為に?」私が顎に手を置いて考えるポーズをすると、もう一方の手も私の肩を掴みぐぐぐっと押されて近くの小部屋へと入った。

「未知のものに遭遇した時の勇気が、僕らにとって重要な資質だってあの人は言ってた…。未知のものがドラゴンだとして、僕らに備わる勇気という資質を試したいってことだよね」

「そうね。きっと、そうに違いないわ。 あ…ねぇ!私達、魔法生物飼育学でドラゴンの弱点について学んだわよね!ほら、覚えてるでしょ?一般的なドラゴンの大きさと同じ模型だって言ってた…」

「あぁそうか!彼らの習性を利用すればいいんだ!…確か、人間の言葉を理解する種類もいたよね?知性も高いし、僕らの声が通じるかも」

「だけど、勇気を試すのに、人の言葉を理解するようなドラゴンを用いるかしら?それに、知性が高いだけじゃなくて彼らは狡猾だから、そうそう説得には応じてもらえないと思うよ」

二人で顔を突き合わせて、ドラゴンへの対処法をあれやこれやと討論する。きっと今頃、他の代表選手達もこうやって、作戦を練っている頃だろう。

20130907
title by MH+
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