万物流転 | ナノ
37.さいてい4
『寝起きのジョージはキス魔』という有難くない教訓を胸に、私は女子寮に帰った。双子からそれぞれ借りたTシャツと短パンは後日洗濯をしてから返すと言うことにして、私服に着替える。

そして、借り物の男子制服はどうしたらいいものか?と思い至ったところで、私は借り暮らしの小人か!と自分自身にツッコミ、とりあえず杖を振るって汚れを落とし、シワを伸ばした制服は、新品同様になった。

モリーさんから、家事魔法を教わっていて良かったとそう思いながら、スネイプ教授が用意して下さった黒い袋の中へそれをたたんでしまうと、いよいよすることがなくなった。

けれど、目は冴えてしまい、あんなことがあった今。私はもう眠る気にもなれず、結局アンジーが起きるまで心を落ち着かせようと先日スネイプ教授にすすめられた魔法薬学の本を読むことにした。一時間ほど経ったところで、彼女が目覚め、ベッドの上に私の姿を確認すると「戻ったのね」と微笑んだ。

どこか落ち着かない雰囲気をまとっている私を不思議に思った彼女は、男子の部屋で何かあったのか?と聞いてきた。アンジーに嘘が通用するはずもなく、仕方なくジョージのことを白状すれば「ついにやったのね」と背後に雷を轟かせながら彼女は呟く。

「アリシアに伝えなくちゃ!」血相を変えて、寝間着姿のまま部屋を飛び出して行ったアンジーは、数分後に同じく寝間着姿かつ美容パックを顔に貼付けたままのアリシアを連れてきて、二人であれこれ話をしている。そうしているうちに、同室の他の子も起き出してきて、ぞろぞろと女子トークが始まった。

こうなってしまえば、私にはもう彼女らを止める術は無く「やっぱりジョージは、その気があるとアタシは思うのよ」自慢げに言う同室の女子にアリシアが「えー!でも強敵ディゴリーがいるじゃない!」とセドリックの名前を出して力説し出した。

確かに、セドリックとは監督生になってからと言うもの一緒に過ごす時間が多くなった所為か、仲良くさせてもらっている。けれど私と彼は、彼女らが私達に期待しているようなそんな甘い関係じゃない!とだけ、吐露しておこう。

ジョージのことは、まだ分らない。彼の行動は、私からしてみれば不審な点が多いし、間違いなく彼は私にとても優しくて親切にしてくれるが、家族ぐるみで付き合ってきた所為か、ジニーへのそれと違いが私には区別がつかないのだ。

朝食を済ませて、アンジーが炎のゴブレットに自分の名前を書いた紙を入れるのを眺めながら、私はボーッと自分の恋や愛についてを考えてみた。けれど、その方式の中へ双子やセドリックを当てはめてみても、今はただ漠然として、しっくりこなかった。

私達が居る場所とは反対側で双子とリーが何やらこそこそしているのに目が行き、しばらくじっと見ていると、その三人が一斉に何かを呷った。後輩の三人組にフレッドが勝ち誇ったように耳打ちをしている。有頂天の様子でジョージが両手を擦り合わせるとリーがニヤーッと白い歯を見せた。

一歩、二歩と双子がゴブレットの方へ歩いて行き、年齢線を踏み越えた。辺りにいた生徒の一人が「ウィーズリーの双子がやったぞ!」と叫ぶと、年齢線の向こう側では双子が満面に笑顔を浮かべてハイタッチを躱す。

しかし、フレッドがポケットから取り出した羊皮紙(名前、学校名記入済み)をゴブレットの中へ入れようとした時、二人の身体が跳ね返されて、近くでその勇姿を見守っていたリーを巻き込みながら吹き飛ばされた。

「忠告したはずじゃ」

どこからともなく現れた校長先生が、面白がっている調子でそう言うと、ポンッと大きな栓が抜けるような音がして、双子の顔から全く同じの長い顎髭が生えた。玄関ホールは大爆笑に湧き、フレッドとジョージでさえお互いの髭面を見た途端に笑い出したのだった。

「…ねぇ、アンジー」
「はははっ…へ、ふ…ん?なにレイリ?」

(双子の足元で伸びてるリーを助けに行かなくていいのかな?)
(……あ、)

20130903
title by MH+

*トントン進めて行きたい
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