万物流転 | ナノ
34.さいてい
歓迎の宴が終わり、ねちねちと小姑のように双子とリーを椅子の上で正座させて叱っていると、ぞろぞろと自分の寮へと帰る生徒達の流れに逆らいこちらへ向かってくる小さな足音が微かに聞こえた。

「レイリよお、もちろん俺たちが姑息な真似をして、ディゴリーを引っ掛けようとしたことは悪いと思ってる。それに、フレッドもジョージも俺も反省してるし、この体勢だと足が痺れてきて痛いから、そろそろ解放してくれよ」

リーが疲れた声を出してそうお願いしてきたが、私は双子を交互に見つめながら「まだ反省が足りない!」と叫ぶ。すると入り口の方へ目を向けたフレッドが「お!奴さんの登場だぜ!」とにやりと笑うので、ギリッと睨み付けると「せっかくの美形が台無しだぜ、レイリ」とジョージが茶化した。

私のすぐ傍で足音がぴたりと止まり、気付かないフリをしていても埒があかないと溜息を吐いた私は、そちらを振り返った。やっぱりか…と思いながら出そうになる息をぐっと堪えて、きゅっと口を結んだ。

「何か私にご用でしょうか?」
「お取り込み中、ごめんなさーい。妹が、戻る前にあなたに会いたーいと言ってきかなーくて」

「レイリ!あなーた、代表選手に、立候補してくだーさい!応援しーます!」ガブリエラがきらきらした青い目を向けて私にそう告げる。「ごめんなさい。私は年齢制限に満たないので」と断ろうとすると、勢いよく立ち上がったフレッドが後ろから私の口を塞いで「あぁもちのロンさ!は、自分の名前をゴブレットに入れるよ!」と言った。

その言葉にパッと表情を明るくしたガブリエラは、嬉しそうに頷き、後ろのフレッドにいつかと同じようにエルボーを食らわせて腕の拘束を解いた私に勢いよく抱き着いてきた。

「頑張ってくださーい!あなーたなら、選ばれまーす!代表、応援しまーす!」

身体を離して、私のネクタイを華奢な腕からは想像が付かないくらい強い力で引っ張って、私に腰を折らせると、自分の顔を近づけて、桃色に染まった唇で私の頬に一瞬だけ触れた。

「「きゃーー!」」

色気の全くない双子の叫び声が背後から響く。呆然とする私に、ひらりと身を翻したガブリエラは、姉の手を引きながら大広間の扉を出て行った。

「なあ、どうするんだよレイリ。あの子、お前のこと本当に、」

リーが足の痺れを取ろうと、その場で足踏みをしながら、私の肩に手を置いて言ってきた。どうするも、こうするもない。明日には、双子の作った性転換ゼリービーンズの効果が切れるだろうから、そのまま姿をくらますまでさ!

「もう、なにも言ってくれるな、リーよ」

20130901
title by MH+
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