万物流転 | ナノ
32.いたずら6
彼女の夢をぶち壊すような気がして申し訳ないのだが、私は今はこんなナリをしているが、生物学上は女であるので、私は彼女の想いには応えられない(いや、応えられる気もないけれど)とにかく、溜息が出そうだ。

どうにかして、手を離してもらいたいのだが、意外にもがっちりと私の手を包んでいるし、相手が女の子なので、無下に振り払うようなことも出来ずにいると、そこへ見覚えのある美少女が現れた。

「ガブリエール!わたーしのガブリエルは、どこでーすか?」
「お姉ちゃん!わたーしは、ここーにいます!」

ボーバトンの生徒の人垣から現れたのは、長さは腰まである星のように輝くシルバーブロンドに、吸い込まれそうな深い青い瞳の女子生徒だった。『あぁ、この子が!』と私は思った。

「妹がすみまーせん。わたし、ガブリエルの姉のフラー・デラクールといいまーす。よろしく」

「えぇっと…よろしくね」
「よろしくお願いします」

握手を求められた私とセドリックは、あまりの美少女さにたじたじになりながら、差し出された彼女の手を握った。その様子に満足したかのような顔つきのフラーは、妹の手を引きながら女子の群れへと帰って行った。

「あの子…きっと、」
「…え? なに?」

顔を赤くしたセドリックは、私の耳に口を寄せて「ヴィーラの血を引いてるよ」と囁いた。なんで?と聞き返せば「だって、妙に自信満々って感じだったし、それに…」彼の声がどんどん小さくなる。「それに?」と探るような目で彼に先を促すと「ちょっと自己陶酔の気がある感じがした、から」言いにくそうに口をもごもごさせた。

にやにやしながら「セドリック、顔が赤いよ」と彼をからかってやると「わ、笑わないでよレイリ!」と、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。なんだよ、その乙男な反応は!

ついつい、自分が男の身体をしていることを忘れて、セドリックの手首を掴んで顔から剥がして赤い顔をよく見ようと顔を寄せれば、ボーバトンの女子からは悲鳴に近いような声が上がった。あー、さいですか。ちょっとこの図はマズいですよね。以後気を付けます。

パッと手を離したところで、控え室の扉が乱暴に開かれて、その隙間から管理人のフィルチさんが顔を覗かせた。ようやく大広間の歓迎の宴の準備が整ったようだ。私達は彼女らに説明をして、少し寒い廊下に並んでもらった。

向かいの廊下からは、監督生二人に連れられてダームストラング校の生徒達がぞろぞろと歩いて来るのが見える。レディーファーストと言うことで、開かれた大広間の扉を私達が潜ると、全校生徒が行進する私達に注目した。

マダム・マクシームとカルカロフは、すでに教員席側に仮設で置かれた木のテーブルに着席しており、ボーバトンは半分ずつに別れて穴熊と鷲寮のテーブルに、ダームストラングの生徒はそのまま蛇寮のテーブルへと落ち着いた。

20130901
title by MH+
[top]