万物流転 | ナノ
23.しらない3
「皆さんいいですか?…ではさっそく膿取りを始めましょう」

スプラウト先生がきびきびと言ったので、双子は私の肩からしぶしぶ手を離した。私はセドリックに連れられて、彼らと反対側の場所へ行き作業を開始した。フレッドはアンジーと、ジョージはリーと組んで膿を集めていた。アリシアと言えば、また別の彼氏と授業に取り組んでいるみたい。

「体調は大丈夫?」
「…まさか、それを聞くために私と組んだの?」
「まぁ、それも理由のうちの一つだけど…あれ?怒ってる?」

伺うような目遣いではにかんだセドリックに、私は言おうとしたことが言えなくなって「べつに怒ってないわ」と素っ気なく呟いた。美形はずるいですよね。ほんと。

セドリックが手に持っている先端が尖った木製の棒を、植物の腫れ物にプツっと突き立てると、中から黄緑色の液体がドロドロと溢れ出てくる。

「心配してくれてありがとう。私は大丈夫」
「そう。良かった…。今回は忙しくてお見舞いにも行けなかったからね」

手を動かしながらも、会話を楽しむことができるのは、セドリックと私が優秀である証拠。さすがポモーナ・スプラウト先生が寮監をしているだけのことはある、と私が思うくらい、彼の手付きはこなれたものだった。

セドリックが先に膿を取り出す作業をしたので、私が瓶でそれを集める係になった。てきぱきと手際よく作業をこなして行くと、あっと言う間に植物の腫れた部分はなくなって行き、私達のブボチューバーは大人しくなった。

「僕がこれを提出してくるよ」
「それじゃあ、私はプランターと土と道具の準備を…」

「土と肥料は僕が運ぶよ。プランターとスコップをレイリにお願いしてもいいかな?」
「…任せて、セドリック。何だかありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」

さりげなく、重たいものを自分が率先してやろうとするとか…。なんて気配りの出来る男の子なんだ!セドリックは紳士を体現したかのようなジェントルマンではないか!…あ、言ってることが分からなくなってきた、自分にも。

道具を揃えて、セドリックが持ってきた土と肥料をプランターの中でかき混ぜながら、私はいつかと同じようにセドリックの性格のイケメンさについて考えながらその後の授業を過ごした。

土を仕上げた後、セドリックが「実家からたくさんお菓子が届いたんだ!」と嬉しそうに話してきて、一緒に食べようと誘われたので、私はありがたくそのお誘いを承諾した。

鐘が鳴り、授業が終わると、セドリックの周りへ彼と同じ寮の女の子の軍団が押し寄せてきたので、私はその場を離れた。もちろん、寂しそうな…それでいて困った顔をして私に視線を送る彼に対して、手を振ることも忘れずに!

「「レイリ捕獲!」」
「うわっ…ちょ、フレッド!ジョージ!」

長靴を脱ぎ、入り口の傍の水道で手を洗っていると、双子に両脇を捕まえられた。私はそのまま次の授業の教室まで、彼らにずるずると引き摺られて行くことになってしまい、アンジーとアリシアとリーの三人が、含みのある笑みを浮かべながら後を追ってくるのを苦笑を零して見ていたのであった。

「お次は、待ちに待ったムーディのDADAだな。兄弟?」
「あの変人ムーディがどんな授業をするのか楽しみだぜ、相棒」

20130830
title by MH+
[top]