万物流転 | ナノ
24.しらない4
「アラスター教授!」

DADAの授業が終わって、教室に誰もいなくなったのを確認してから、私は背を向けるアラスターに向かって声をかけた。

「私に何かおっしゃりたいことはございませんか?」

きっとあのオーナーのことだ。兄であるアラスターに、私が入学式の日に時間いっぱいまで宿のロビーで待っていたことを話しており、私のメモ書きを手渡しているはずだから、彼から一言謝罪でもあっても良いと、私は思ったのである。

それに、何も私はアラスターから謝罪をして欲しい訳じゃない。本当のことを言えば謝罪じゃなくてもいいんだ。どういう理由があって、私を迎えに来ることが出来なかったのか、ということを彼の口で説明してくれさえすれば、私は良かった。

例え、彼が旧知のアルバス・ダンブルドアからの要請で『闇の魔術に対する防衛術』の新しい教師になることを予め教えてくれなかったとしても。何か一言あれば、私は彼を許す気でいたのだ。

けれど、彼はこちらを振り向きもせず「まだいたのか、ウチハ」と機嫌が悪そうな声で唸った。そして、上着の内ポケットから携帯用の酒瓶を取り出して、グビグビと飲んだ。どこかで嗅いだことのある嫌なにおいがした。

「授業のことを根に持っているのならば、謝ろう。しかし、お前はわしの服従の呪文にあのクラスの連中の誰よりも強く抗い、そして――ついには、撥ね除けてみせた!」

アラスターは、グルンと振り返って不気味なほどに口を歪ませて笑っていた。目には、私が今までに見たこともない恍惚とした鈍色の光が、彼の本来持つ黒い瞳にゆらゆらと漂っており、左目の青い魔法の目玉はぐるんぐるんと高速回転を繰り返している。その異常な姿を見て、背筋にゾクッとただならない恐怖を感じた。

「見事だったよ、ミス.ウチハ…」ぺろっと舌なめずりをする彼に後ずさりをすると、ガタンと後ろの椅子に足が当って椅子を倒してしまった。椅子の倒れる音が響き、それにハッとしたアラスターは「用件がなければ、出て行け。夕食を食いっぱぐれても知らんぞ」と言って、私を教室から追い出した。





「お!今日の英雄様のご登場だぞ!」
「ハリー、ロン!席を空けろ!」

夕食の時間帯で、大広間は多いに賑わっている。入り口に私の姿を見つけた双子が声を張り上げて、私を誘導した。ハリーと、ロン、フレッド。そしてその向かいにアンジー、アリシア、リー、そして、ジョージが座っていた。

「ムーディ!なんとクールじゃないか?」フレッドがそのように言えば、彼の向かいに座るジョージが「クールを超えてるぜ!」と言い「超クールだ!」とリーが言った。

私はハリーとロンが一席分ずれてくれたので、フレッドの隣り、リーの正面と言う位置で夕食をとることとなった。彼らの話を聞いていると、どうやらムーディのDADAの授業についてをハリーやロン達に話していたようだ。

周囲の低学年の子も、双子達のムーディの授業に対する評価が気になるらしく、食事を進めながら、耳を立てているらしい。フレッドが「あんな授業は受けたことがないね」と意味ありげに笑うと、興味津々といった空気で包まれた。

「ムーディの授業には参った。わかってるぜ、あいつは」とリーが言うと「わかってるって、なにが?」ロンが身を乗り出した。もったいぶって「現実にやるってことがなんなのか、わかってるのさ」とジョージが答えると「やるって、何を?」ハリーも腰を浮かせて聞き出した。

「『闇の魔術』と戦うってことさ」得意げな顔をして言うフレッドに、アリシアが「まぁ、要するにムーディの授業はこれまでのどの先生よりも実戦的だってことよ!」と付け加える。

「あいつはすべてを見てきたな」ジョージがそう言って「スッゲェぞ」と今度はリーが身を乗り出して、後輩二人に顔を寄せ、声を落として「生徒に服従の呪文をかけやがったんだぜ!」と告げた。

「そして今回の授業で唯一その呪文を打破した人物こそが――」
「今ロンの隣りでローストビーフを摘んでいる彼女なのだ!」

ハリーは目をぱちぱちと瞬かせ、ロンはぽろっと手に持っていたチキンを皿の上に落っことした。今や、獅子寮のテーブルだけでなく、他寮からもざわめきとともに、私の名前と「あのムーディからの服従呪文に打ち克っただと!?」と聞こえてきた。

穴があったら、埋まりたい。私はそれ以上、食べる気を無くしてしまい、急いで大広間を後にした。目立ってしまったことに恥ずかしいやら、ムーディの言動について腹立たしいやらで、涙が出そうになった。

(あ、ロングボトムくんの靴下!)

20130830
title by MH+
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