万物流転 | ナノ
22.しらない2
三日分の授業の遅れを取り戻すかのように、朝から必死で勉強した。やっぱり、今年の魔法史の授業も皆眠っていたし、ハグリットの受け持つ魔法生物飼育学は、ちょっとばかし危なっかしい感じがした。

昼食を済ませ、ポモーナ・スプラウト先生の待つ温室へと向かった。そこでは、有害な物から無害な物まで、様々な植物が(スプラウト先生曰く)花壇(生徒からするとそんな可愛らしいものじゃない)に植えられており、もはや森のような外観をしている。

温室の入り口で、生徒は皆長靴に履き替えて室へ入るが、その時私は自分の右足に、何やら柔らかいものが触れるのを感じた。

「うわ。それ、どうしたのレイリ?」
「わからない。けど、前の子が残して行ったのだと思う」

中には靴下が取り残されていた。隣りで長靴に履き替えていたアンジーが嫌そうな顔をしながら、私が長靴から引っこ抜いた靴下を指差した。「それじゃ、そいつ、きっと片足だけ裸足だぜ!」そう言ってフレッドが、片割れのジョージの肩を叩きながらげらげらと笑っている。

「あ、イニシャルの刺繍がある…L.Nって誰だっけ?」

私がうーんと考えていると、頭の上に光る豆電球を浮かばせた顔をしたアリシアが「Neville Longbottom! 四年生のロングボトムだよ!」と声をあげた。「何も長靴の中に脱ぎ忘れて行かなくてもな…」リーは、呆れたような笑みを浮かべている。

「夕食の時に持って行ってあげるか…」
「それがいいよ」

私はぱたぱたと靴下を振ってゴミを落としてから、くるっとたたんでローブのポケットへと押し込んだ。「はい、皆さんこんにちは!」温室の中程まで歩いて行くと、スプラウト先生の明るい声が響き渡った。

六年生ともなれば、魔法植物達の扱いも手慣れたものである。そして、ブボチューバーの膿を収穫と、新しい植物のための土作りが今日の授業内容であった。

先生は作業の流れを一通り説明する。どうやら今回は、二人一組になって真っ黒な太いナメクジのようなブボチューバー(通称:腫れ草)と向き合い、二人で息を合わせてドロッとした膿を瓶の中へと集めて行くようだ。

「レイリ。一緒にどう?」
「…え、あぁ。いいよ」

「悪く思わないでくれよ、ウィーズリー?」そう言って私にドラゴンの革の手袋を渡したのは、セドリックだった。長靴の中の靴下事件で忘れていたが、薬草学はハッフルパフとの合同授業であり、獅子寮の私達と穴熊寮のセドリックがこの授業を一緒に受けるのは当然である。

セドリックの登場に、不快感を露にした双子は「レイリは俺らと組むんだ!」と後ろから肩を掴んだ。ぐいっと後方に引かれて倒れそうになるのを、正面のセドリックが腕を取って引っ張ってくれたお陰で未然に防ぐことができた。

「何これ、どんな状況?」
「双子が穴熊に連れて行かれそうになる姫を守ろうとする状況」

先生から瓶と手袋を受け取って帰ってきたアンジーとアリシアが私達四人の図を見て、怪訝な目付きでそう言うので、リーが丁寧にかつ分かりやすく説明をしていた。だけどね、私を姫に例えるのは、どうかと思うよ。

20130830
20151109修正
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