万物流転 | ナノ
18.きらいだ
ワールドカップの翌朝、私はセドリックと一緒に行動をしていた分身とまだ暗いうちに入れ代わり、三人でキャンプ場を去った。家に着くと、白い顔をさらに血の気を無くさせた奥さんが日刊予言者新聞を握り締めながら軒先で立っているのが見えて、夫や息子の姿を見つけるやいなや、ぎゅっと二人をか細い腕で抱きしめた。

きっと、モリーさんも同じことを子供達にしているんだろうなぁと、ぼんやり思っていると、私にもその熱い抱擁がなされた。まさか赤の他人であり出会ってまだ日の浅い私にも、ぎゅっとしてくれるとは予想もしていなかったので、吃驚してしばらくの間、私は彼女になされるがままだった。

朝食をすませたエイモス氏が読んでいる日刊予言者新聞に、何気なく視線を遣ると、見出しには『クィディッチ・ワールドカップでの恐怖』とでかでかと書かれており、その文字のそばには例の印がモノクロの写真でチカチカ光っていた。

文面を辿って行くと、どんどんと不快な気持ちにさせられて、私は乱暴にトーストの最後の一口を口の中へ放り込んだ。リータ・スキーターが書くものは、嘘もでっち上げも甚だしい。私は、彼女本人を見たことはないが、きっと、いやぁな女性なんだろうと思っている。

魔法省の失態、国家的ヘマ。アーサーさんらしき人のことや、今大会の責任者の一人であるルドビッチ・バクマン氏、さらに過去について一悶着あるバーテミウス・クラウチ氏についても、批判的なことが書いてあった。よくよく読んでみると、私のことについてもこのように書いてある。

『深い海の底のようなローブに身を包んだ何者かが、戸惑う民衆に何かを語りかけていた。しかし、あの人間は、一体何者なのだろうか。魔法省の役人の誰もが、その者の正体について口を閉ざしている。――それから、こんな噂を耳にする。もしや、あの深海色のローブに身を包んだ何者かーーその人が、今回の事件を引き起こした犯人ではなかったのだろうか?――真実は、まだ、誰にもわかっていない。』

トーストがどろどろになるまで噛んで噛んで、噛み切って呑み込んだ。ゆっくりと食道を通って、食べた物は胃へと収まって行くのに対し、ふつふつと腹の底から煮えたぎる苛立ちと不快感は、まだ治まってくれそうにはない。

私がテーブルの上に置いた右手をギリッと、白くなるまで力一杯握っているのをセドリックが見つけて「どうしたの?大丈夫?」という風な目をしていたので、声をかけられる前に、右手をテーブルの上から膝の上に隠した。

20130829
title by MH+
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