万物流転 | ナノ
19.きらいだ2
宿屋ムーディーに着いたのは、夕方になってからだった。煙突飛行に不慣れであることを、ふとした拍子にぽろっと零した私の一言によって、それを知ってしまったセドリックが、来た時と同じ方法で『僕がレイリを送るよ』と言うので、それを回避することが非常に困難だった。けれど、彼を何とか説得して、ディゴリー家の暖炉から宿の暖炉まで無事に飛んでくることができた。

「おかえり」と愛想の良い梟便受付所の魔女が私に言ったので「ただいま」と反射的に言う。取り立てて何ということもない遣り取りではあるが、ほっこりとした気分になる。部屋に上がると机の上に今年使う教材がドッサリと置いてあり、その一番上には『Constant vigilance!』と綴られたメモ用紙があった。

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新聞を見た。あの記者はああいう質だから、あやつの書く記事には、惑わされるな。わしは、お前を、なかなかの働きぶりだったと評価する。怪我はないか?

明日の出発には、わしも付き添おうと思う。ダグラスにはすでにそう伝えてある。ロビーで落ち合おう。

追伸
アーサー・ウィーズリーから首飾りは受け取ったか?

A.M

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文章では、素直に自分の気持ちを伝えられる不器用な人だと思うんだ。アラスターという人は…。長年の闇の魔法使い達との戦いで、口は歪み、鼻は大きく削がれ、さらには左目は義眼。左足の膝から下は義足をはめている。そんな容貌なので、何かと誤解を受けやすいのだ。

まぁ、アラスターがそういう人なので、私は自分の保護者のことを周りの人には語らないようにしている。だから、私の後見人が彼であると知っているのは、魔法省の幹部数人と、闇祓い局の特定の人物以外に、アーサーさんとモリーさん。そして、ダンブルドア校長と寮監のミネルバ女史だけである。

トランクに教科書やローブ、制服など、学校で必要になるものを詰め込みながら、明日から始まる六年目のホグワーツに思いを馳せる。あまり乗り気はしない。けれど、通わない訳には行かないので、軽めの夕食をとり、シャワーを浴びてから、その日はすぐ眠った。

翌朝は、アラスターに叩き起こされなくて良いように、私はいつも以上に早起きをした。今年一年、きっとこの部屋には戻って来ることはないので、ここに置いていく荷物の整理をちょっとだけした。筋トレとチャクラコントロールのトレーニングを済ませ、汗を流した。清潔なホグワーツの制服を来て、ネクタイを締める。

鏡の中には、ここに来た時と比べて、また少し大人に近づいた自分が笑っていた。荷物を引き摺りながら、階段を一階まで下りる。いつものように朝食を済ませて、アラスターが迎えに来るのを待った。ウェイトレスが気を利かせて、丁度いい温度の紅茶を持ってきてくれた。約束の時間まで、まだあるので私は読書をすることに決めて、鞄から手頃な本を取り出した。

外では激しい雨が降っているのに対し、今日の喫茶店は比較的静かであった。きっと、この雨で足をとられてこの店に来るお客さんが減ってしまったのだろう。いつもの魔女のおばあさん達のおしゃべり声がないことを、ちょっとだけさみしく思った。

20130830
title by MH+
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