万物流転 | ナノ
17.まぶしさ7
アラスターの名前が出た途端に、チャールズ先輩がさらに吃驚して、目玉を落っことしそうなほど目を開いた。パーシー先輩に至っては、驚き過ぎて言葉も出ないって感じ(ただし、鼻血については、私がテントに入ってきてからずっと出っぱなし)である。

「あの、このことは内密でお願いします。私が闇祓いであることは、在学中の人の耳に触れるとまずいことになるので…」

私が彼らにお願いすると、快く了承してくれた。そして、テントに入ってからずっと気になっていた長男ウィリアム(通称ビル)の腕の怪我を見つめる。

彼は、小さなテーブルの前に座っており、腕にシーツを巻き付けていた。そのシーツは赤く血で染まり、腕からかなり出血している様子が伺える。

チャーリー先輩に目を向けると、彼のシャツは大きく裂け、引っ掻き傷のようなものからは鮮血が滴っている。けれど、ドラゴンキーパーとしての生活が長いためか、血が出ているのにも関わらず、本人はまったく気にしていないように見える。

「ウィリアム先輩?ビル…さん?」
「ビルって呼び捨てでいいよ、レイリ」

痛みを耐えるような微笑みを返されて、私はぎゅっと両手を握った。アーサーさんの隣りから一歩二歩、少しだけ歩いて、彼が座る正面にしゃがんだ。「あの…ビル?」慣れない呼び方だったけれど、本人様から呼び捨てOKを貰えたので、ありがたく今後からもそう呼ぶことにする。

「腕の怪我を私に治療させていただけないでしょうか?」
「君、そんなことも出来るのかい?」

「まぁ…はい。ちょっと特殊な方法ですが、きれいに治せます」
「それじゃあ、お願いしようかな」

「それと、チャールズ先輩の胸の引っ掻き傷と、パーシー先輩の鼻血も私が治療しても宜しいですか?順番は、ピル、パーシー先輩、チャールズ先輩になりますが…」

「あぁ、頼むよ」とチャーリーが言い「…お願いします」とパーシーがおずおず言った。そして、ビルは腕のシーツを取り去った。「失礼します」と腕を取り、傷の具合を確かめてからいつものように両手に緑のチャクラをたくわえて、彼の腕の上にかざした。

「なんだか不思議な感じだ。温かいものが、身体の中に流れ込んでくるみたいな」ビルがそう言えば「そんな魔法、はじめて見たよ」とパーシー先輩が興味深げに呟いた。「パース、これは魔法じゃないんだよ」と顔に笑みを浮かべたチャーリーが、みるみると傷の塞がって行くビルの腕を見ながら言った。

「僕は以前、レイリに傷を癒してもらったことがあったんだけど…」
「あぁ。そんなこともありましたね…」

チャールズ先輩が懐かしそうに話をするのは、もう何年も前のことで、彼がまだホグワーツの生徒だった時の話だ。記憶では、ハグリットの小屋で魔法生物と戯れていた先輩が、ドラゴンもどきに噛み付かれた時に、偶然通りかかった私が、彼の傷を医療忍術を使って治したような、治してないような?

「はい、終わりです。他に痛む箇所はありませんか?」
「すごい!すごいよレイリ!まるであんな傷なんて無かったみたいにキレイさっぱりだ!」

手を握ったり、腕を振ったり、肩を回したりして、完治した腕の感覚を確かめている。そして次に、立ち上がって布で鼻を押さえているパーシー先輩にちょっと屈んでもらい「目、閉じて頂けますか?」と言いながら右手を彼の鼻に近づける。すると、五秒で鼻血は止まり、その十秒後には、変に膨らんでいた眉間の腫れもすっかり治まった。

最後に、やはり破けてしまった衣類は元通りには出来なかったけれど、胸の傷から鮮血を滴らせるチャールズ先輩に治療を施して、全ての作業を終えた。長男次男三男はもちろんのこと、アーサーさんにも非常に感謝された。そして、三人ともに「このことも内密に!」と言えば「わかってるよ」と微笑みが帰ってきたのであった。

20130827
title by MH+
[top]