万物流転 | ナノ
44.うらぎり11
私が暴れ柳へ到着したのは、スネイプ教授が根元の穴の中へと入っていく時だった。目を凝らして見たら、彼は杖を持つ以外は手ぶらだった。私は一体の分身を作り城にある脱狼薬を持ってくるよう命じた。

巨木へ近づくと私の気配に気付いた暴れ柳は荒れ狂ったが、写輪眼を発動した私の前では、もはやこの暴君も敵ではなかった。太い枝や硬い蔓の鞭が私を襲ってきたが難なく躱し、根元のこぶに触れると大人しくなった。

根元の穴に身体を滑り込ませて、しばらくは道なりに進んだ。足音は気配とともに消していた。ピリピリとした空気に肌が痛かった。この空気が私に、私がまだ忍だった頃を思い起こさせた。そうか、これか。私がこの世界で無くしてしまっていたものは、これか!

複数の人の気配が近くなってきた。私はより自分の気配を絶ち、足場を選びながら目的の部屋まで歩いていく。すると中から「恥を知れ!」ハリーの怒鳴り声が聞こえた。ビクッと反応して、部屋の入り口のすぐ近くの壁に飛び、出て行くチャンスを待つ。

「黙れ!我輩に向かってそんな口の聞き方は許さん!」

スネイプ教授の狂気じみた声が響き渡った。ハリーと、その後ろにいるロンとハーマイオニーまでもが杖を構えるのが見えた。ここで出なければ、彼らが教授に向かって呪文を放ってしまう!

「エクスペリアームス!」三人がほぼ同時に叫んだ時、私はスネイプ教授の前に飛び出していた。そして片手でその武器解除呪文を相殺した。

この部屋にいる誰もが私の登場に驚いて、動きを止めた口を閉じたが、ロンの手の中にいる鼠だけは、じたばたともがき、ビービーと泣き喚いている。

敵か味方か、分別もつかず誰も声を発しようとしない。その静寂を破ったのは、私の声だった。

「セブルス・スネイプ。あなたがいると事態がややこしくなるので、あなたにはほんの少しの間、眠ってもらいます」

回転して、背後のスネイプへ向き直った。警戒した彼が杖を振るう前に、その杖腕をやんわりと制して顔を近づけた。驚きに目を見開く彼に、私はこれは好都合!と仮面の下でにやりと笑う。

「なにを!」ルーピンのしぼり出したような掠れた声が聞こえたが、私は無視して黒曜の瞳を見つめた。彼の眼の中に三つの巴が旋回しているのが見える。あっと言う間に、スネイプは私の瞳術の催眠に掛って意識を失った。

「さて、どなたか彼をベッドまで運ぶのを手伝ってください」私が紅い瞳を光らせると、ルーピンがびくっと肩を跳ねさせおずおずと意識の無いスネイプの肩に腕を回して一緒に運んだ。

彼をベッドに横たえてから、背後の三人組に顔を向けると、三人とも呆然とその場に立ち尽くして、一連の流れを見つめていたようだ。

20130819
title by MH+

*ラストスパート!
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