03話 食堂行こうぜ!



「…」
「…」
何故だろうと、哀原は思い続ける。目の前に座っている人物――遥唯人。先程から何もしゃべらない。あったばかりの頃は無駄にべらべらべらべら一人で喋り続けていたと言うのに。
もう静かにしろと思ってはいたが急に黙られると気色が悪い。

初対面の時とはえらく違ったその態度に哀原は戸惑い気味に話しかけた。
「え、と…もう6時だな…」
「…」
ソファに座ったまま動かない遥はもしかしたら寝ているのだろうかとも思ったがそうでもないようだった。

「なあなあ、哀原きゅん」
「っ、なに?」
ようやく喋った遥に奇妙な安堵感を覚えつつ哀原は尋ねた。すると遥は何もしゃべらず自分のマスクとサングラス、頭を指さした。哀原はきょとんとして遥を見る。

「何…?」
「ぎゃはは、いやあ不審者ルックやめちゃうのかなあと思って」
自分のことを不審者というのに、遥はなんの嫌悪感も抵抗もないようだった。
「ああ…もう、なんか面倒だし」
「ふうん」
それだけ言って、遥はソファに横になった。いまだにマスクとサングラスをつけたままである。

「遥君は…それ、外さないの?」
「俺はいーの、御病気だから」
「病気?」
「頭の」
うん、知ってる。
「あっはははは!知ってるっつーの!って思ったろ今!うははは!」
まあ思ったが仕方が無いことだと思う。哀原はいまだかつてこんなによく笑い人を不愉快にさせる人間と出会ったことが無かったのだ。


「ま、いいや。腹減ったから俺食堂いってきちゃうーん。哀原君は一人で行けよぉ、俺親衛隊に睨まれると面倒だしィ」
「えっ!…でも場所わからないんだけど」
「え〜?パンフレットあんじゃんかー…ちょ、そんな子犬みたいな目でこっちみないでくんない?あっはっは、わかったわかった案内しちゃうよこのうざい男がご案内いたしますよ!」
がばりと起き上がった遥に、少しだけ哀原は違和感を覚えた。なんだか初対面の頃と同じくらいにうざいはずなのに、何かが違う。

「ていうかあれよ〜俺みたいな…ブフッ、ふ、不審者と…歩いててはずくねえの?ぶっ、ふ、ふしんしゃってマジ…失礼…うひゃひゃひゃ」
「…別に、そういうの気にしないし」
「あはー、いい子だなあ哀原きゅんは!よし、じゃ行こうか食堂レッツゴー食堂、ひゃはは」

マスクの下で彼は果たして本当に笑っているのだろうか。
哀原はそんなことを考えていた。


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