17話 進め




(甲木視点)

「副委員長、会長が保護されました。視聴覚室です」
「…そうか」

唯人が星谷という生徒に襲われかけて、保護されたという連絡を受け、俺はただ、ああまたか、と思った。

会長と言う肩書きがつけば、滅多な事をする奴はいないだろうと理事長はあいつを生徒会に推した。

しかし、それは間違いだった。俺は最初から無理だろうと思ってはいた――それほどに、あいつは美しい。
確かにウザキャラではいじめを受けていたようだが、襲われ、乱暴されるよりはるかにマシだったろう。

そして、あいつに人生を狂わされる人間も、いなかっただろう。

あいつはいつでも、知らない間に人を魅了してしまっていた。本人は被害者のはずが、いつも加害者から責められていた。
こんかいも、星谷はいたって普通の好青年だった。唯人に出会ったことで、変わってしまった――そう考える人間もいるだろう。

「…副委員長?」
「…」

委員の声が遠く聞こえる。

「鬼島委員長が現場に到着したということです」
「…」
「あの…?」
「…」
「副委員長?」
「電話かわれ」

委員から無理矢理電話をひったくった。

「おい、鬼島」
『は?甲木か?』
「ああ」
『…唯人なら今から保健室に連れていくが』
「…お前、本気なのか」

鬼島が唯人を好いていることは、意外でしかなかった。奴はB専なのだから。今まで付き合っていた恋人も、モンスターばかりだった。

「本当に唯人が好きなのか。…そいつと一緒にいて、トラブルに巻き込まれる覚悟はあるのか」
『さっき唯人に訊かれたわ、それ』

鬼島は受話器の向こう側で笑った。

『障害があると燃えるタイプなんだわ俺は。守ってやりたくなるっつーのもあんなァ』
「…意外だな」
『…まぁ、こんなふうに思うのは唯人が初めてだな』
「お前も人の子だったんじゃねーの」

不細工好きが、とんでもない美形を好きになるとは。
どの口が、と言いたくなる。

『そりゃそうだろ。俺をなんだと思ってやがる』
鬼島は楽しそうに笑って言った。
『お前みたいにウジウジ考えてらんねーんだよ。そんなんじゃ、前に進めねーだろ。唯人も。お前も』

――そうだな。俺は、あの日からなにも進んでいない。
進みたくないと、思っているのかもしれない。


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