09話 ・・・



遥が入部してもう1週間ほどたったころ。

明日が新入生歓迎会の結果発表と言う日。

「おい、唯人ォ」
「なんですか?鬼島さん」
文芸部部室では、ソファに遥が座り、その膝に鬼島が頭をのせ、眠っている状態だった。加佐見はそんな二人を微笑ましそうに見ている。

遥にとって、自分の容姿に興味がない人間はとても安心できる。鬼島の前では、遥は自然体で。そんな二人の様子を甲木に報告しなければならない加佐見としても一安心なのだ。
「理事長が7時に理事長室に来いってよォ。なんかしたか?」
「……そうすか、うん、そうすか…」
遥はため息をつきながらココアを飲む。鬼島は憂鬱そうな遥の様子に小首を傾げつつ、起き上がった。

「一口」

言いながらココアの入ったマグカップを遥から奪い取り、自らの口に運ぶ。ちょ、なんでわざわざ俺の飲むんですか!不満を漏らした遥に、鬼島は意地悪く笑う。
「丁度そこにあったから」
言い分に腹がたちつつ、遥はもう膝枕しませんから、と言いクッションを鬼島に投げた。

「俺は堅い枕の方が好きだ」
「…悪かったですね、かたい腿で」
「いや、俺はそっちのが好きなんだよ」
と、言うわけで、と鬼島が再び遥の太股に頭を載せる。遥は少し眉を潜めたが、無視することにしたらしい。しばらくすると、鬼島が本格的に寝入ってしまった。
すうすうと眠っている顔は、まったくもって、B専な鬼畜風紀委員長には見えない。遥は吹出物ひとつない鬼島の頬に指を滑らせる。

「…俺は枕じゃないのに」

その顔は少し赤かった。

その様子を見ていた加佐見は、一応、と甲木に二人のやり取りを報告した。そして1分とたたず甲木が来て、何故か鬼島の胸倉をつかみ上げたのだった。


――午後7時、理事長室。


「来たわねぇ」
やってきた遥は理事長に言われるがままに、変装をといた。神妙な顔つきの理事長に、遥は不機嫌そうな顔になる。

「今日来てもらったのはあれよ」
「あれ…?」
「会長探し」
ああ、そんなのもあったな、と他人事のように思うが、遥も一応探してみた。しかし最近は文芸部のことで頭がいっぱいで。――正確には鬼島のことで、頭がいっぱい、で。

「…忘れてた」
「ふふん、それでなんだけどね」
「は、はあ…なんすか」

理事長はにこりと笑う。

その笑みが、遥には少し恐かった。



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