07話 ・・・



「びっ…くりした」
遥が部屋で寝付いた後、コンビニに向かう哀原は激しく拍動を繰り返す心臓に耐えかね、しゃがみこんだ。寮のロビーにはちらほらと人がいたがいまはそれを考える余裕もない。

「あんなに…綺麗だなんて…」
元々、遥が美形ではないかとは考えていた。顔が小さく、スタイルもいい。時折サングラスの隙間から見える目元もとても整っていた。最初に「同類」のようなことを言われたことも要因だ。

誰でも見れば胸が痛くなるほどの美しい容姿。あれは男にも女にも人気があっただろうな、と考えつつ哀原は立ち上がった。
「あ、編入生」
「あ…甲木、さん?」
「どうだよ、唯人とは」
現れたのは風紀副委員長の甲木で、あまり面識がない哀原は以前助けて貰ったことを思い出す。
「あ…この間はありがとうございました。遥は…その」
「顔、みして貰ったか」
「っ…なんでわかったんですか?」
「反応見ればわかる」

そういえば、甲木と遥は親しそうだった、と哀原は思って気になっていたことを尋ねた。
「あの、遥は外部生なんですよね?二人はどこで知り合ったんですか?」
「奴と?……なんでお前にそんなこと言う必要がある」
初対面のころからどこか冷めているとは思っていたが、遥とともにいた時よりも冷めた目で見られて、哀原は底冷えるような感覚に侵された。

「すみません…ただ、遥は少し、思いつめ過ぎているようで。顔を見られることにも、結構抵抗があるようなんですけど…甲木さんは親しいようなので何か知ってるのかと」
ぎろり、と釣り目を細くして自分をにらむ甲木に少しびくつきながらも、哀原は動じずに見つめ返した。甲木は何か言いかけて、ため息をつく。

「…奴は顔が『ああ』であることに果てしない劣等感を持ってる」
「え…?それってなんか嫌味」
「男からはそう思われがちだから、人には言わない」
哀原は自分が失言したと思い、あわてて口を閉じたが甲木は誰でもそう思うだろう、とフォローなのかそんなことを呟いた。

「奴の顔はおそらく日本でも指折りだ。気持ち悪いくらいにもてる。男にも女にも」
「…よくご存じなんですね」
「…あいつの兄貴と親しかった」
「兄貴…お兄さんがいたんですか?」
「ああ、”いた”」
過去形のそれに、哀原は息をのむ。

「唯人とはあまり似ていない。まあそれでも、美形の類だったか…大学生でT大の三年だったよ」
「…T大」
「あいつの兄貴は不良校からT大に行った伝説の人だった」
聞いていれば、やはり過去形の甲木の言葉に哀原は来るべき言葉を待つ。

「唯人が中二の時だ。…あいつの兄貴が殺された」
「こ、ろ…いったい誰に」
「…唯人の――」

言いかかって、何故か言葉が止まる。

「悪い、時間だ。じゃあな、ばいちゃ」
「はあ!?」
そこで!?と思いながらすたすたと歩いていく甲木を呆然としながら見送る。ああ、そういえばコンビニに冷却シートを買いに行く途中だった、と思いだして、先程まで聞いていた話を哀原は忘れることにした。


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