07話 ・・・



「……」
哀原は言い知れぬ不安にかられながら、遥がいる部屋のドアを見つめていた。自分と距離を置くのは親衛隊に制裁されないためといいつつ、それ以外にもおそらく何か理由があるように思える。

自分を責めないから余計に、後ろめたくなる。だがしかし、一緒にいたくないわけでもなければ嫌いでもなく、その遥の態度に甘えてしまう。それを自覚しているので余計につらい。

「おかゆできたぞー」

良いながらドアを開け、ベッドわきにあった椅子にトレイを置く。遥は布団をかぶったまま出てくる気配がない。

「…食べれそう?」
「……ん、おいといて」

珍しく大人しい遥を前に哀原も落ち着いた気分になった。

「そっか、じゃあ俺、リビングにいるから…」


そう言って出て行った哀原を思い返し、遥は妙な気分になった。自分を心配しているような、そんな心づかいが垣間見え、少しだけ居心地がいい。今までは、表面上の好意しか受け取ったことがなかった。

「…」

布団から顔を出し、湯気がたつおかゆに目を向けた。少し冷ましてあるようで、あまり熱くはなさそうだ。手を伸ばしスプーンを持つと、ひとさじ口に運んだ。

「…うわー」

味がしない。
風邪をひいているから当たり前だ。それでも何故か、少し美味しく感じた。
ゆるくウェーブのかかった、茶髪をかきあげ、汗の滲んだ額をタオルで拭う。お粥と一緒に哀原が持ってきたものだが、水を含んだそれは冷たくて気持ちがいい。

「哀原…賢人か」
一週間以上、共同生活をしている身から言えば、少し疎いところもあるが比較的いい人間だ。性格もよく人当たりもいい。頭もよく回る。

それに「容姿がいい」という点で、悩んでいるということに、遥は共感した。

遥はこれまで、容姿がいいことでさんざん苦労をしてきた。

風紀副委員長の甲木は遥の被害者でもある。何もしていないのに、自分が悪いということになってしまうというのはつらいものだった。だからこそ、親衛隊のことで哀原を責めることはできなかった。

「…」
遥はふらつく体で立ち上がり、ドアに手をかけた。
サングラスもマスクもない素の顔で、リビングにつながる扉を開く。

そこにいた哀原は、ソファに座っていた。
「遥?…!」
部屋から出てきた遥に、哀原は目を見開いた。
「…水もらっていい」
「…わかった、びっくりしたー!ちゃんと寝てろよ!」
「…そんなに驚かせた〜?」
流石に周りに騒がれているので変なところで謙虚にはなれない。自分の容姿くらい把握している。

「髪!」
「は…?」
「髪のいろ!黒だったじゃんか!もしかして鬘だったわけ?」
そっちにいったか、と驚かされたのは遥のほうだった。皆、自分の顔ばかりあれこれ言ってくるものだが…。
哀原は態度を変えない。今までとなんらかわらなかった。

それがとても嬉しかった。

「…三藤の気持ちがちょっとわかった」
「?」

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