08話 B専門風紀委員長とS風紀副委員長とNOT不細工



哀原がコンビニに出かけている際、部屋のインターホンが鳴った。受話器から聞こえる威圧的な声と、「風紀委員だが、遥唯人はいるか」という、明らかに自分と話がありそうな相手の態度に、遥は仕方なく、いつも通りの変装をする。

「おい、いないのか」

本来、哀原に巻き込まれ制裁を受けている時点で、風紀の監視がつくはずの遥だが、甲木の力でそれが差し止められていた。それが今、風紀が尋ねてきたということで何か状況が変わったのだろうと推測できる。
現在制裁中の身としては、親衛隊が風紀を語っている可能性もあるため一応ディスプレイに映る顔をしっかり確認してからドアをあけた。

「はぁ〜いっ」
そこにいたのは、短い赤髪をウルフカットにした、その男は学内では有名な人物だった。
「…こんにちゃ〜、どうしました、鬼の風紀委員長様〜」
目の前がぐるぐるする遥には、玄関まで行くのが精いっぱいだったので、できればこの語長話は避けたい。しかし変装のせいで遥の体調の悪さは顔に出ていないので風紀委員長・鬼島理衣(きじまりい)にはわからなかったようだ。

「…お前が遥唯人か?」
「は〜いっ、ゆいときゅんで〜っす」
「……ほお」
精いっぱい、初対面の人間にうざがられそうな態度をとった遥に、何故か鬼島は笑顔を向けた。

「お前のその格好はなんだ?そんなに見れねえ顔なのか?」
「あは〜いや〜ん、そんなはっきり言っちゃや〜んっ」
風紀の情報として、遥の格好は知っていたのだろう。編入生を見に来ては期待外れとしてきた先人達を思い出し、この人も肩透かしを食らい、ここで踵を返してくれるだろうと踏んでいた遥だったが――
「たまんねえな」
「は…ぁ?」

その返しに遥はぽかんとしてしまった。
「っ!」
ぐい、と腕を掴まれ玄関でねじ伏せられる。ドアがしまる音がしてようやく、熱で鈍った頭が覚醒した。
「ちょ、何…」
「お前、どんな感じに不細工なんだ?ん?」
「は、何、え…!?」
遥の混乱も当然のことだった。鬼島は遥の汗ばんだ肌に手を這わせ、更にシャツをまくりあげている。

「ちょ、俺、不細工なんだって」
「ククッ…そりゃあ良いな。俺はB専なんだよ」
B専。
「ぶ、ぶさいくせんもん…?」
さあっと血の気が引いていく。男前な鬼島の顔がとてもじゃないが直視できない。
「ち、違う!俺は不細工じゃない!」
「あ?どっちだよ」
「っう」
首筋に舌を這わせられ、鳥肌が立った。昔からよく襲われる遥ともなれば、この先のパターンはわかるはずだったが――この男は異常だった。

一応極上の美形の遥が不細工専門の鬼島に、襲われているなど。

「やめてくだ、さっ」
い、と言い終わる前にドアが開き、入ってきた人物が思い切り鬼島を蹴り飛ばした。
「いって!」
「っ!」
「たく、あんたは!こいつは不細工じゃないっつっただろ!」

入ってきたのは甲木で、明らかに襲われたらしい遥を見るなりコインがはさめてしまいそうな皺を眉間につくる。

「…体調悪いのか、お前」
「あ、うん…」
「寝てろ馬鹿が。鬼島なんかほっときゃいいよ」
「てめえ、それでも俺の部下か!」

鬼島は蹴られた後頭部をさすりながら立ち上がった。遥が露骨に引いたので、どうやら加虐心を煽られたらしい鬼島が再び接近するが触れる前に甲木がその手を払った。

「いい加減にしとけよ、…怒るぞ」
「チッ…」
「それと、遥。お前もその変装一回とけ。こいつしつこいから」

言われて遥は急いで変装をといた。鬼島はかなりがっかりしたようで、「こんなオチって…そりゃないぜェ…」とぼやいた。
「美形なんていなくていいから、この学園も不細工ふえねえかなぁ…」
「お前みたいな特殊な性癖の奴に都合がいいようになってたまるか」
言いながら甲木は遥を抱き上げ、自室のベッドに戻した。哀原が準備したお粥の食器等を見、口を開く。
「…よかったな。あいつは、大丈夫そうだ」
「……哀原のこと?」
「ああ、…お前ももうそろそろ――」
「甲木、無理しなくていーって…。俺のこと本当はにくいだろ、すごく、すごく」

――数年前。

甲木の兄と、そして遥の兄が死んだ。
甲木の兄は遥のせいで死に、遥の兄は甲木のせいで死んだ。

「…お前はどうなんだ。俺がにくいか」
その言葉に遥は首を横に振った。
「なんで、んなわけ、ないじゃんか。あは」
「…俺もお前と同じだ」
「…」

心の中で少し、憎んではいる。



「…おい、お前ら俺のこと完全無視かこんにゃろー、二人の世界かこら」
不憫な鬼島はそのまま部屋を立ち去った。


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