わん……
「うっぐ……ふぇ、う」
俺はまた部屋で泣いてた。
だいちゃんが鬘と眼鏡を拾ってきてしまった。また、もう一人に支配されて過ごすなんて嫌だ。
だいちゃんのことは好きだけど……もう、いい加減にしてほしい。
姉ちゃんが好きなら二人でよろしくやればいい。弟で遊ばないでよ。
「……わんちゃん?ごはん食べないの?」
「……」
部屋の外からだいちゃんの声がする。
俺はふとんにくるまって無視した。ドアにはかぎをかけてある。
「わんちゃん?」
「……いい」
「駄目だよ、食べなきゃ」
「いい!も、しらない……」
もうだいちゃんも姉ちゃんも知らない。
だいちゃんは暫く外にいたけど、諦めて自分の部屋に戻った。
俺は少し、胸が痛くなってしまった。
「ごめんなさい、だいちゃん……」
俺は改めてかつらと眼鏡をゴミ袋にいれた。
口を縛って、そろりと部屋からでる。
廊下には人がまばらにいた。
「……っ」
ゴミ捨て場はどこだろう。
俺はそんなことすら知らない。いつもだいちゃんが…。
「おい、君」
「!?う……」
しばらく歩いたところで話しかけられ、その場に立ちすくむ。
「やっぱり、わんこか」
「あ……雑賀、せんぱい?」
「そうだ。一人か?」
「う……は、い」
返事をして先輩を見上げる。
改めてみると、背は高くて、顔もとってもかっこいい。雰囲気はとってもぱりっとしていた。
こんな人に話しかけられるのは、緊張する。
「わんこ、どこに行くんだ?」
「え、あ、ごみ…」
「ゴミ?ゴミを捨てるのか?それならそこに、ダストシュートがあるだろう」
「だすと、しゅーと」
よくわからないが、先輩の説明によるとそこにゴミを入れたらあとは業者さんがやってくれるらしい。ありがたい。
俺はダストシュートの前で立ち止まって、じっとゴミ袋をみつめた。
これで、俺は…ようやく。
「わんちゃん何やってるの?」
「っ!?」
「牧野か」
廊下がざわつく。だいちゃんがこっちに来ているからだ。
だいちゃんはカッコイイから、たくさんファンがいる。俺はどのファンに何度も呼び出された。
「わんちゃん、それなぁに?何捨てるつもり?」
「っ、あ、う……」
だいちゃんが恐い。
でも、俺も、もう…。
「もう、やだ…おれ、いや」
「わんちゃん?」
「だいちゃんも、姉ちゃんも、もうやだ…」
俯きながら言うと、先輩に頭をなでられた。
「っ?」
「牧野。後輩を泣かせるな」
「はぁ?雑賀には関係ないよね。なんなの?」
「関係ある」
雑賀先輩が、俺をぎゅっと抱きしめてくれる。
それがとってもあったかくて、思わずすり寄ってしまった。
「…流石わんこだな」
「ねぇ、雑賀。いい加減にして。わんちゃんはお前のじゃねぇんだよ」
「なら、お前のものだとでも言うのか?ふざけるなよ」
言い争いをする二人に、俺はどうしていいかわからない。
気がつけば目から涙がこぼれていた。
「っ、わんちゃん?」
「わんこ…大丈夫か?」
「…っ、う。俺、おれ…」
俺は、もう自分を見失いたくない。
姉ちゃんの思い描くような奴にはなりたくない。
友達が欲しい。
普通の生活を送りたい。
だから、だから俺は…。
「あ…」
だいちゃんが唖然としたように俺を見た。
俺はゴミ袋をダストシュートに投げ入れていた。
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