わんわんお!



あの後、俺は部屋に戻って引きこもった。
だいちゃんが何か言いに来たけど、無視した。

だいちゃんなんて嫌い。姉ちゃんのことばっかり。本当は俺のことなんて何も考えてないんだ。

「……これで、おれ」

これで俺は、ちゃんとした生活を送れるんだ。



翌日、俺は制服に着替えて洗面台の前に立った。
鬱陶しい前髪もない、分厚い眼鏡もない。いつも通りの顔――。

「すー…はー…」

深呼吸を繰り返す。
やっぱり清潔感って大事だ。もう一人の俺はちょっと汚かった(自分の事をこういうのもなんだけどさ)

「わんちゃん、おはよう」
「っ!」
「身構えないでよ」
 
 にっこり笑うだいちゃんに、恐怖がつのる。だいちゃんは怒っているに、にっこり笑う事が多い。今はどっちなんだろう。

「ねぇ、わんちゃん。今日からどうするの?」
「…?」
「だって、わんちゃん…椀田健のことを、皆胸糞悪い鬱陶しい奴だと思ってるんだよ?」
「っ…」
「今日からそのレッテル貼られたまま生活しなきゃならない。どうするつもり?」

 そんなことになったのは、だいちゃんとお姉ちゃんのせいだ。それなのに、なんて他人事なんだろう。

 いや、思い返せば俺が悪いんだ。二人にされるがままだったんだから。

「…もうやだ、から。自分として、がん、ばる」
「しゃべるのもヘタなのに、誤解を解けるの?」
「がんばる、もん」

 尻すぼみになる俺の言葉。だいちゃんは深くため息をついて、俺の頭を撫でた。

「だいちゃんがそう言うなら、協力しようね」
「!!」
「大丈夫、俺はだいちゃんの味方だって言ったよね」

 だいちゃんの言葉にうなずく。そうっとだいちゃんを見ると、今度こそ優しい笑顔で笑っていた。ほっとして、むぎゅりと抱きついてしまう。だいちゃんは俺の背中をなでてくれた。



「おはよう、皆」
「おはようございます牧野様!えっと…そちらのかたは?」
「っ…」

 以前俺を突き飛ばした可愛らしい顔の人にじろりと見られ、思わずだいちゃんの後ろに隠れる。でも、だいちゃんより身長が大きいので隠れられてない。頭隠して尻隠さず…に似た状態。

「椀田健君だよ。君たち知らないの?」
「!?わ、椀田!?」

 敵意と驚きの混じった目に見つめられ、俯く。可愛い顔の人は、いまいち信じられない、という表情だ。

「あの、椀田はもっとうるさいし不潔そうで…」
「ああ。えっとね、わんちゃんは元々すっごく大人しくて…俺がアドバイスして明るくなろうとしてたんだ。でも空回りしすぎちゃったみたい」
「そう、なんですか?」

 じっと見つめられ、顔が熱くなる。何も言えず、ごにょごにょしていると、納得したようだった。

「分かりました。親衛隊員には言っておきます。椀田君の…本来の顔なら受け入れられやすいでしょうし。だけど、お二人はどういうご関係で?」
「幼馴染なんだよー。ね、わんちゃん」

 俺は黙ってうなずいた。可愛い顔の子がどこかに行くと、体から力が抜けてその場にへたり込んでしまう。

「大丈夫?わんちゃん」
「ん…ごめ、だいちゃ」
「いいよ。それより、これで多分大丈夫だ。クラスにはほとんど出てなかったみたいだし、そのまま行って大丈夫だと思うけど…」
「?でて、なかった?」
「まぁ、それは…うん。また、ね」

 だいちゃんに教室まで送ってもらい、俺は中に入った。皆が俺をじっと見るから、足が止まってしまったけど、なんとか自分の席に座れた。


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