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(蜂須視点)
俺、蜂須総司は意外と誠実な人間(自称)である。
浮気をしたことがないし、他人と性的なことを自ら行ったことはない。
スキンシップはするが、一線を越えたことはないし、誰かと付き合ったこともない。
「要するに何が言いたいんですか?」
「つまり、俺は壽山センパイの言う…浮気者じゃないってこと」
「……九十九のことはどうなんですか」
風紀委員室。
他の委員たちの注目する中、俺は壽山センパイと対峙していた。
手には小さな紙が一枚。
俺はそれを壽山先輩に手渡す。
「九十九とは別に付き合ってるわけじゃねぇし」
「そうは思えませんでしたが」
「まぁ、両片思いみたいな感じじゃあねぇの?」
ふう、とため息をついた壽山先輩は眼鏡の奥から俺を睨みつけた。
「屁理屈は結構です。ご用件は…これですか?」
「…いや、俺は壽山先輩と愛を語り合いにぃ」
「私は…あなたのような人が嫌いだと言いましたよね」
確かにそうみてぇだな。
一人称も最初会ったころと違うし、ずっと敬語だ。
大河によると、壽山センパイは嫌いな相手には「私」、好意的な相手には「僕」を使うらしい。
最初会った時は確か「僕」っつってたような気がする。
記憶喪失んときだったからあんま覚えてねぇけど。
「俺は割と誠実だし純だって言ってんじゃないですか」
「……はっきり言うと性格とその態度も顔もなんだか嫌なんです」
マジか。なんだか存在自体を拒絶されたぞ。
「すげぇ嫌われてんじゃん俺!笑える!」
「…軽々しくそういうことを言うところも嫌いです。…要件に関してはわかりました。早く出て行きなさい」
「はいはい、壽山センパイ。心変わりしたら俺んとこきてくださいね〜」
「…チッ」
先輩は舌打ちをすると、俺から視線をそらし、デスクに向かった。
俺は風紀委員室を出ると、まっすぐに食堂に向かう。
「あー、腹減った。雄利にあいてぇ」
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