B



(蜂須視点)

「全く…君は記憶喪失のままの方が大人しくてよかった。問題を起こされると迷惑なのですが」
「んだと!」

雄利が壽山センパイにかみつく。
記憶喪失のままということは、雄利の事を忘れたままということで、雄利が激怒するのも仕方ない。

例のリンチ(と、あえていう)を忘れている状態で居続けられたなら、どんなによかったかと思わなくもないんだが…。

「雄利、落ち着け」
「…総司さん」
雄利の耳を引っ張って、耳たぶをふにふにしつつ、壽山センパイに異議申し立てる。

「たびたび迷惑かけてんのは謝っけど、俺が悪ィわけ?こいつが先に俺を殴ってきたんだけど?この俺を」
「ああ、今回の場合そんなことどうでもいいんです。喧嘩両成敗と風紀がしたとしても、関係ないんですよ」
「あ?」
「狭間は狭間グループ社長の二男です。ややこしいんですよ」
「…狭間グループ」

狭間グループには覚えがある。
かなり大きな会社で日本でも有数、技術力も高い。近年かなり規模を拡大しており、CMキャラクターはかの大女優MIE。

「はーん…狭間グループねぇ」
「そうです。この馬鹿転校生が、どうやらお家の力に頼る気満々で、逆らう奴を退学させる、なんて言っている程です」
「ふーん」

生返事をしていると、蹴りあげたもじゃもじゃが立ちあがり、キーキー喚きだした。

「お前、俺になんてことするんだよ!!父さんに言いつけてやるからな!」
「ふーん」
「総司さん、そろそろ耳、はなしてくださ、ぁっ」
「やだね」

雄利の耳たぶで遊びながらもじゃもじゃを見下ろす。じっと見ていると、もじゃもじゃが何を勘違いしたのか、にかっと笑った。

「そうか、わかったぞ!さっきのは俺に触られて照れてやっちまったんだろ!許してやるよ!」
「おー…」

こんな人間を見るのは初めてだ。アホすぎる。
コンビニの前でたばこ吸いながらたまっている、ヤンキー高校生の方がまだ人として話が通じそうな気さえする。

「狭間グループでちゅかー、すごいでちゅねー」
「なんだよ!そのしゃべり方、馬鹿にしてるのか!」
「してねーし」

馬鹿にしていると言うよりは、心底可哀想な頭の持ち主だと憐れんでいる。親はなんできちんとしつけなかったんだろうなァ。
結局、人の性格の根本なんて、親の育て方によるもんだわ。

え?俺は母さんのまるままだから。

「もういい!」

真っ赤な顔して去って行ったもじゃもじゃは、最後に大声で「今謝ったら許してやるぞ!」と叫んだが、聴こえなかったことにした。

「雄利ちゃん、あいつ頭イっちゃってんな。どう思う?」
「…み、みみ…離してくださ、ぁっ、そ、じさ…」
「はいはい」

食堂のど真ん中でセクハラしたことを、少しだけ申し訳なく思いながら、俺は耳から手を離した。

「で、壽山センパイ。あいつどうすんの」
「さぁ。どうでもいいですが…そのうち学園から追い出したいですね」
「ふーん、なぁ、協力したら、一つお願い聞いてくれねー?なんなら、追い出してやってもいいけど?」

俺の提案に、壽山センパイはあからさまに嫌そうな顔をした。

「…お願い、ですか」
「まぁなぁ、大丈夫、なるべく健全なやつにするって、なァ」
「…」

壽山先輩は無言で食堂を出て行った。勝手にしろ、ってことだな、こりゃ。
「総司さん、なんであんなこと…」
「雄利ちゃん」
「え、な、なんすか」
「今日は俺の部屋にくる約束だよなァ?」

雄利の体が固まった。

「お前が上だから」


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