事件



いつのまにか、総長と俺のチームができていた。うれしいのと同時に、距離が開いていくことに耐えきれず、自ら壁をつくり、総長を遠ざける俺は、あの人のことを何一つわかっていなかった。


「は?」

1月から急激に減った総長の溜まり場訪問。しかし何かしら事情があるのだろうと、皆が会いたい気持ちを抑え我慢していた。

なんだかんだ、チームができたことを「どうしてこうなった」と言わんばかりに愚痴っていた総長だが人望は厚い。ドエロでサドでも、あの人の度量の広さや喧嘩の強さ、それに、なんだかんだあくどい事をしているようで、人を助けるその姿勢。

まるで正義のヒーローのように、崇めているようなやつも多かった。

俺はそこまではいかなかったが、総長のことは勿論尊敬していた――、し。
正直、よくわからない曖昧な好意も抱いている。


だからこそ。


「総長に呼び出されてっ、三丁目の廃工場行ったら…!VIOのやつらが待ち構えてて…!」
「…」
大河の言っている意味がわからず、言葉が、返せない。

「何、言ってんだよ馬鹿が…!総長が一枚かんでるとでもいいてえのか!?あぁ!?」
「っ…!俺だって信じたくないんすよ!」

ボロボロの大河と、チームの奴ら。救急車で運ばれていったやつもいる。そいつらはそろって、「総長に呼び出された」と言う。

「ありえねえ事言ってんじゃねえよ!!馬鹿かてめえらは!あの人がそんな真似するはずねえだろ!!」
「だって…!最近、総長全然ここ来ねぇし!最近なんかたくらんでるみたいな顔して…」
「…黙れ、ありえねえ、総長がそんな…」


一番混乱しているのは俺だ。
溜まり場の奴らが言い合いをする声が遠くに聞こえた。


――雄利ィ、お前ほんと可愛いわ。

そう言いながら、ケツ揉んできた総長を思い出す。あの人が、俺らをおとしめただなんて、信じたくない。

「…はっきりさせりゃあいい」

ぽつんとつぶやいた言葉は、妙に響いた。いつの間にかシンとしている溜まり場。

「九十九さ…」
「はっきりさしゃあいいだろ!あいつが、そんなことしてねえって…!!」


俺が、総長を信じなければ。

副総長としての立場を示さなければ。


「…総長が言ってただろ、裏切もんが出た時の制裁…」
「え…」
「あれ、やるん、すか…」

呆然とする大河を、俺は睨みつけた。


「俺は、それくらいに総長を信じてる」



――じゃあ最後まで信じろよ。

今となっては、当時の俺にそう怒鳴りつけてはったおしてやりたい気持ちでいっぱいだった。





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