出逢い
(九十九視点)
初めて総長に会ったのは、ネオンきらめく繁華街。がらの悪いやつらが闊歩する、夜には子供が一人で歩いてはいけないと指定されるほどの場所だった。
そのころの俺は、家族仲も最悪で荒れに荒れていた。中2で族のヘッド。バイク無免許運転、飲酒、タバコ(良い子は真似すんな!!)、その他もろもろ。
むかつくやつは殴ったし、腹が立ったら喧嘩した。
そんな日々が終わりを迎えたのは、夜の街で異様に目立つその人にであってしまったから。
「いってえな、オイ」
「あー?ごめんちょー」
自分より長身の奴が前から歩いてきて腹がたち、肩をぶつけた。向こうにとっちゃ肩じゃなかったが。
喧嘩をふっかけて、ぼっこぼこにしてやろうと思った。
のに。
逆にやられるとか、かっこ悪すぎだろ俺。
「おーい、大丈夫かぁ〜生きてるか〜」
殴りかかった俺を軽くいなしたそいつは、俺を簡単に返り討ちにした。
目がさめると天井が目が痛くなるほどのピンク色、何事かと思えばラブホテルの中で、やつはシャワーを浴びてきたのは上半身裸、したはパンツオンリー。テレビには卑猥な映像。
「(まさかゲイ――)」
えっ俺のバックバージン!と思ったが心配無用だったらしい。整い過ぎていっそ気色悪い顔で笑ったそいつは、なんかくう?なんかのむ?とぼけっとしてる俺にしきりに訪ねてきた。
「…」
「とりあえず手当てはしといたからなー」
「…どーも…」
「べっつにー、その代わり俺みたいなのに喧嘩売るような無謀なことはやめたほうがいいんじゃねえの?」
もっともな意見だ。
見るからにやばいとわかるそのルックス、たかい身長。どうにもカタギの人間には見えない。まさかその道の人間だろうか、と顔を青ざめさせていると、否定するような甘い声で、その人はもう一度たずねてきた。
「なぁ、腹減った。なんか注文しよーぜ?つくもちゃん」
そのでかい掌には俺の携帯がおさめられていた。
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「九十九っちゃん〜♪おっひさーん」
「…どうも」
偶然再会したのは、そいつがかなりの人数にかこまれてしまっている時だった。えっこいつなにしてんの馬鹿なのくらいには思っていたのだが、どうにもまったく気にしていないようで、近くにいた不良の髪をつまんで「シャンプーなにつかってんの、キミ、がさがさ!がさがさ!」と意味のわからない挑発をしている。やめてやれ。
「てかちゃんとした髪染め使ってねえだろーいいメーカーの教えてやろっか」
「え?マジで?」
「コラ!なにほだされてんだ子供かてめえは!」
思わずうれしそうな顔をした不良の頭をひっぱたいた、おそらくボスのそいつは、下っ端が馬鹿で情けないやら、なんやらで少し涙ぐんでいる。ドンマイ。
「俺に喧嘩売るとはいい度胸だな!オイ!」
「え?いや、別に喧嘩売ろうとかそういうことは?なかったような?気がしなくもない?」
「なんで終始疑問形なんだよ!!」
全く人をいらつかせる男だった。もういい、素通りしよう、そんなふうに決めたものの三秒後、あれだけ吠えていたボスは地面に伏していた。
「…」
「つーくーもーちゃーん、こないだの借りかえせ」
とんでもない色気たっぷりの声でささやかれて俺は悲鳴を上げたい気分だった。ぺろりと唇をなめたそいつは、今までみたなによりいやらしい。
正直勃つかと思った。
「…チッ」
舌打ちをひとつ。
それは肯定の合図だった。
「俺のことはソウとでも呼んどけ」
コンビニで買った青汁を飲みながら、そいつは言った。
「ソウ…」
「ん、お前のことは――」
「雄利、でいいっす」
「ん?じゃあ遠慮なく」
ソウの喧嘩は、今までやってきたやつらの比ではないほどに、洗練された動きで――それでいてとても強くて。
憧れ。
尊敬。
そんな感情が俺にあったことを教えてくれた。
「…ゆーり」
「っ…」
耳をべろっと舐めて、まるでおれの耳から体中をなぶるかのように、いやらしい声でささやかれる。
このとき、もう俺は堕ちていた。
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