真相



(第三者視点)

「ほー」

ぎゅむりと九十九の頬をつねった蜂須は、にまにまと黒い笑みを浮かべながら、甘ったるい声で呟く。
「ゆーりちゃん、俺のこと信じてたんだー」
「…」
「そーかそーか、俺のサプライズが裏目に出ちまったかー…うーん、残念なこった」
九十九達のチームは、最初の呼び出しからも、何度か襲われた。携帯は、後に蜂須のポケットからかすめとった、敵チームが使用していたと判明し、NUMBERは全員顔を青ざめさせた。
それどころか、九十九をはじめとする幹部達は、吐いたり過呼吸になったりと、ショックは大きかった。

「総長、ほんとに、ほんとにすみませんでした」
「名前で呼べよー、つーかさ、雄利ィ。俺が一度や二度ケツの穴掘られたからって、お前らぶち殺すような心の狭いやつに見えるんかねー」
「…」

見えます。と、室内の誰もがいいかけた。副会長はもう何も突っ込むことができず、自分のデスクに座りそわそわしている。

「まぁ、一度や二度じゃなかったわけだが」
笑みを深くする蜂須は、雄利の耳をべろりと舐めた。
「ひ、ぃ」
「はい、じゃー仲直りのハグしようか」
「え、ちょっと」
書記と九十九をぎゅうっと抱きしめた蜂須は、相変わらずにやにや笑っていた。

「そうちょ、おれ」
「敬語使ったらケツ掘るぞ」
「…俺、総長になら掘られていいです」
副会長と会計が吹き出した。うっとりとした目で蜂須を見上げる九十九は、完全に蜂須のとりこになってしまっている。そんなメロメロ(死語)な九十九を見て、会計は飲んでいたお茶をひっくり返した。

「会長、いちゃつくなら他に…てゆーか、会長受けなの?攻めなの?」
「総長に限りリバありだ」
「ふーん…」

こんこん、と生徒会室の扉がノックされた。
「あ、風紀来ちゃったかも」
「失礼します」
爽やかに入ってきたのは壽山風紀委員長だった。壽山は蜂須たちを見て、一瞬驚いたが、やがて小さくため息をついた。

「その様子では、記憶喪失とやらは治ったみたいですね」
「あ、聞いてたんすか」
「ええ。あなたがそういった性格だと言うことは、一応お母様からご報告を受けていましたよ」
「へえ。なぁ、壽山先輩?」
「…なんです?」
「俺と付き合わない?」

がっちゃん、と今度は副会長が眼鏡を落とした。いや、割れた。
「ななな、何言ってるんですアナタ!今会長といちゃついているのは誰です!?」
「え、いや雄利は雄利。壽山先輩は壽山先輩。なぁ、雄利ちゃん?」
「はいっ」
ぽやん、と蕩けた目を蜂須に向けている九十九はもう使い物になりそうにない。

「…理由を聞いていいですか」
「記憶喪失中の俺が、あんたのこと好きだったんだよ」
「はぁ、でも今は違うでしょう?」
「どーだがなぁ」

色気を含んだ笑みを浮かべる蜂須に、壽山はため息をついた。

「私は、浮気をする人やセックスフレンドなどの関係をもつ人が死ぬほど嫌いなので。あなたとは付き合えませんね」
「ふーん、かてえな」
「あなたが緩いんです。ずっと記憶喪失でいれば可愛げのある性格だったのに…」
「あぁ?あんなうじうじしたののどこがいいんだよ」

書記がびくっと肩を跳ねさせた。
「ああ、お前はいーの。かわいーから。俺がやったらきもい」
甘すぎる空気に最初に根をあげたのは会計で、それに続いて残りの生徒会メンバーも外に出た。

「…生徒会室のっとられちゃった…」
「…壽山先輩、なんとかしてくれませんか」
「嫌です」

その後、蜂須総司は学園の帝王となるが、それはまた別の話である。



(続く)

→あとがき
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