04
入学初日から、俺はかなり遠巻きにされていた。
でも、話しかけてくれた子達もいた。無駄に女の子みたいなやつや、キラキラしたやつが多い中、普通すぎる数人。
三島(みしま)に三村(みむら)に一二三(ひふみ)。全員「三」が入ってるから覚えやすい。
「俺たち平凡仲間だな!」
「蜂須は身長でかいけどな!」
とフレンドリィな感じに迎え入れてくれた。
先輩から「生徒会に近づいちゃだめですよ!そんで食堂もだめっす!」と言いつけられている俺は、山下先輩がせっせと作ってくれたお弁当を教室で三人と食べる。これが日常だった。
「あ、…すや、ま、せんぱい」
「こんにちは、蜂須君。…前髪が」
廊下でばったり会った壽山先輩に挨拶したら、何故か廊下が悲鳴で埋め尽くされた。その場にいたちっちゃい女の子みたいな子たちは、俺に「壽山様に近づかないで!」と声を荒げ始めた。
「…五月蠅いな、蜂須君。前髪が目に入るようだったら、ピンであげるか切ったほうがいいよ」
「…ん、はい」
にこやかに去って行った壽山先輩。俺は妙に小さい子たちに囲まれて、きゃいきゃいと文句を言われたけど、俺があまりに何も言い返さないから皆飽きてどこかに行ってしまった。
そしてその翌日から、三島、三村、一二三は何故かよそよそしくなって、俺を避けるようになった。折角友達になれたのに、とお弁当を一人で食べながらしょぼくれた。
そんな時、教室にカメラを持った、もっさりした人が現れた。
「いやあ、こんにちは。君、蜂須君?蜂須総司君?」
「…?」
頷きながらお弁当を片付けていると、ぱしゃぱしゃ写真を撮られた。
「いやあ、キミどうにも壽山委員長の親衛隊の餌食になりそうだからさ〜学園の救世主こと、新聞部の織田(おだ)君が救済に来ましたよっと」
ぱしゃぱしゃ取り続けられる。え、なに。
「前髪あげてくれる?」
「…」
俺はちょっと躊躇した。
でも山下先輩、前髪あげるなとか言わなかった…し。
そう思ってばっと上げた瞬間、何故か教室の隅にいた不良のひとが立ち上がった。その顔は真っ青。っていうか、気分悪そう。今にも死にそう。
思わずじっと見ていると(っていうかクラス全員みてる)、不良の人が俺の前まで歩いてきて土下座した。
「申し訳ありませんでした!!!」
「…」
デジャヴ…。
俺って、不良の人に土下座される呪いでもかかってんのかな…。
「すみません、本当マジあんとき俺らどうかしててつうかソウさんが俺とタメだなんて…じゃなくて、俺、マジですんませんでした!俺のせいでソウさんがあんな目にあったも同然です!どうか俺を殺して下さい!」
クラス一同、唖然。
その空気を壊したのは新聞部の「織田」さんだ。
「それにしても、とんでもないイケメンじゃん。蜂須君」
「…」
それはなんか…認めます。客観的に見てもそう思った…。
「で、天下の『NUMBER』の幹部とどういう関係?」
「…なんばー?…すうじ」
「いや、チームの名前」
「…」
なんのチームだろう。
とりあえず、俺の素顔はばっちり写真部の織田さんに撮られてしまったため、何故かわからないけど新聞のはしっこに掲載されてしまった。記事の見出しは『注目の新入生』第4回目。不定期刊行だから、学園新聞が4月から何かい発刊されてるかはわかんないけど、このシリーズは4回目らしい。
新聞が出たあと俺は山下さんに泣かれた。あんなもんだしたら、バレるし、九十九さんたちへの死刑宣告になっちゃいますよお!って。
九十九さんって誰。
なんで死刑宣告?
「…」
よくわかんないけど、俺は先輩の涙をごしっとぬぐった。
昼間見た、あの不良君の顔が何故か頭から離れない。…知ってる、人だ。きっと。
それも仲良しだった、多分…。
「…あの、ひと…。しって、る」
「蜂須、さん?」
「…しってる」
『総長!総長の好きなメーカーの青汁買ってきました!』
みたいなことを言われた気がする。
…なんで青汁?俺…好きなの?
なんとなく、その記憶がひっかかった。唯一思い出した記憶だし、全部思い出すきっかけになるかもしれない。
だけど、これだけじゃあ…。
「…青、じる」
青汁は多分、みんなあまり飲まなさそう。健康にはいいけど、おいしくなさそうだし。俺もあんまり飲みたいと思わない…。
だけど、飲んだら何かわかるかもしれない。
そう思って、俺はその夜購買に行って青汁を買った。
意を決して、ごくりと飲む。
――頭が、冴えわたるような気がした。
「…マジか、青汁…お前スバラシイな」
そして全部思い出した。
あいつらが俺に何をしたかも。
俺がどんなやつだったのかも。
九十九のことも。
「……あいつら、マジ、犯し殺す…」
思ったよりド低い声が出た。まぁ、しかたねえわな。
俺今くそ機嫌悪いからよ。
――時は、同年2月にさかのぼる。
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