生徒会長の話



昔から気は弱い方だった。

「や、っ、やだ…せんぱ、ッ」

中学に上がってすぐ。俺は有名な先輩に目をつけられた。閉鎖的な全寮制男子校。中学生の時、小柄でまだ幼かった俺はその先輩の目に酷くうまそうに見えたらしかった。実際うまいって言われた。死にたかった。
強姦された俺は写真をとられおどされた。これから定期的に呼び出すから、逆らうなと。

どちらかといえば、目立ちたくなくて、地味を徹していた俺は、その先輩の親衛隊から見ればとるに足りなかったのだと思うが、やはり鬱陶しかったのだろう。いやがらせが続いた。第一、親衛隊がいるならその親衛隊としていればいいのにと何度も思った。一度行ったらたくさん殴られた。

いじめられている、地味な俺には友達もできなくて、家の名前は高校にあがるまで伏せて偽名を使っていたので誰も助けてはくれなくて。
家にもう嫌だと連絡するのは簡単だったが、跡取りがこんなふうになっているということを病気の母に知られるのは嫌だった。
――死にたい。
ふとそんなふうに思ってしまった。死んだ方が母は悲しむだろうと思ったが、幸いできの悪くはない弟もいる。もういいか。

殴られた無数の痕。蹂躙された体。汚れきったこの身は、どこにも置く場所がない。
一人で屋上に向かい、フェンスに足をかけた時だった。

「何してんだお前」

さっきまでは誰もいなかった屋上に、赤髪の生徒が立っていた。坊主に近いほど髪を短く刈っている姿は、同性愛者と見た目を良く見せようとする学園内では珍しい。
「……」
「おい、答えろって」
近づいてきた相手の顔は酷く綺麗で、思わず見とれる。度のあっていない眼鏡を指でつつかれ意識が覚醒した。
「なにしてんだって訊いてんだけど?」
「…お、れは」

死にたいんだ。
その一言が喉から出せない。

「…お前酷い顔してんな、なかなかキレーそうなのに」

べろ、と唇をなめられてぞわっとした。
「な、ななな…っ」
「ふはっ!お前何年?ちっさー、俺様のタイプじゃあいなあ。175はないと」

その言葉にショックを受けてふさぎこんでいると、タイプじゃないという言葉に反してぎゅうぎゅう抱きしめられた。
「だいじょーぶだぞー、俺様がなんとかしてやる。だから死ぬな」
するすると服の中に入ってきた手が俺の殴られ変色した体をなぞっていく。
「きもち、わるくないですか」
「あ?これ?べっつに。俺はお前をいじめたやつの方がきしょくわりーよ」

鎖骨あたりの、先輩に噛まれたところを指でぐりぐりされる。

「助けてやるよ、俺が」
耳を食まれながら、聞こえたその言葉に俺の目から涙がこぼれる。


それからはあっという間だった。
あの先輩は退学になり、俺を含める数人を脅して従わせていたことが露見。実家から勘当されたという。それを訊いた俺は、誰がその処置をしたのか気になった。
怪我が完治してから、初めてクラスメイトに話しかけると皆俺に同情してくれて、「三和国光」君がそうしたのだということを教えてくれた。

三和国光。

風紀委員に任命された一年生。黒髪をアシンメトリーにカットし、俺と違ってスタイリッシュな眼鏡をかけたかっこいいやつ。
――あのひとだ。屋上であったあのひとだ。
中学一年の俺は、同じく一年の三和に酷くあこがれた。あんなふうになれたらとも思ったし、もっと話してみたいとも思った。
しかし、俺は彼のタイプじゃない。

「…そうか」
その結論に至ったとき俺は気づいた。俺はあの人のタイプの人間になりたい。そして好かれたい。それはつまり――
彼に恋をしているということだ。
「俺あの人がすきなのか…」

自覚してからの行動は早かったと思う。
カルシウムを大量にとり、筋トレをし、メンズファッションの雑誌を読んで流行りを研究。もちろん、メンズ用化粧品なんてものを買ったこともある。仲良くなった――後の生徒会副会長に協力してもらい、へたれた性格の改善もした。
そして高校生になる時、名前を本来のものに戻し、眼鏡をはずし、コンタクトにした俺は、できるだけかっこいいと思える性格・容姿で入学式に出席した。
同じクラスにはなれなかったが、それでも食堂なんかでは良くみかけた。

三和は屋上の時とは性格が全然違っていて、なんとなく俺はあいつの本性を知っていることがといてもうれしかった。
俺だけだ。
――俺だけが知っている。

それがうれしくて仕方がなかった。


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