02



「あーやっちまった…」
襟足の長い赤髪を風になびかせ、禁煙パイポを咥え、屋上でぼやいた。現在素に戻っている俺は、ブレザーの代わりにだぼっとしたパーカーを着、くりんと癖のついた赤髪をまとめるようにバンダナを頭に着用している。ファッションセンスを問うな、俺様はこの格好――裏のヒーローが風紀委員長だとばれなければそれでよい。

食堂での出来事は、明日の朝には新聞部によって記事に描かれてしまうだろう。『孤高の風紀委員長様・実はブラコン!?』みたいな。げえ、勘弁してくれ。
確かに俺は武光を甘やかしてしまうが決してブラコンじゃないんだ、ただ弟が好きなだけさ!!(どっかのドラマでなんかやってたこんなセリフ)
じゃなくてだな。

俺の家系のせいだ。

三和家は代々、家族間のつながりを大切にする性質がある。しかしそれは、自分の意志ではない。無意識だ。
三和家の血筋に生まれたものはだれでも家族愛に厚い性質になってしまうのだ。
俺は弟の武光があまり好きじゃなかった(わがままだし、いつもちやほやされていて癇に障った)が、それでもこの血のせいで甘やかし、可愛がってしまう。この赤い髪は、家族愛の愛情の塊なんだと。俺らの血筋でも、赤ければ赤いほど家族愛が深く次期当主とされる決まりだ。そして俺は死ぬほど赤い髪をしているせいで、次期当主として生まれた時から祭り上げられている。(ただし俺の母親は普通の、うちの家に関係ないところの出なので、俺の親父の赤みがかった茶髪に反し、真っ赤な髪に生まれた俺を相当嫌悪していた)まあ俺様としては母親は鬱陶しいだけだったし、黒髪に染めるのも悪くなかったが――

「だっから、一生会いたくなかったんだっつーの…」

家族の前で俺様がでれでれするなんて言語道断すぎる。
ましてや、今日のように他人の前で奴にでれつくなど、ありえない。それでも、やつを一目見れば俺の頭の中は生粋のブラコンへとチェンジし、奴の行動はすべていい方向にしか考えられなくなる。

もはや病気だ。
俺様はそれが嫌で嫌で仕方がなく、離婚してなおもくっついてくる弟と離れるためこの学園に入った。
昴にはこの体質(?)のことは話してある。腐っても幼馴染だ、あー、あいつと幼馴染じゃなきゃ食っちまいたいくらいの上玉なのになぁ…。

「にしても裏のヒーローはしばらく休業すっか」
裏のヒーロー。
親衛隊の過激な制裁者を撃退すること(と、俺のストレス発散+ドS本能の唯一の行き場)を目的としたもんだが、俺の本来の髪の色と顔を知る武光がいる限りは難しいだろう。食堂でのできごとで俺が風紀委員長だとわかった時点で俺にくっついてきていたからな。俺を親衛隊への抑止力にするつもりだ、あのわがままイケメン大好きな弟は。
こうして奴と離れると、冷静に考えられるのに。ああ、俺の家族愛マジでどっか行け…いや、多少はいるけども。今の量は気持ち悪い。

ちなみに俺・生徒会と武光が接触した時点で制裁は確実に怒っちゃうな。困っちゃうなもう。
「あ〜困っちゃうな〜俺様困っちまうなぁ〜」
ふんふんふーん、パイポを噛んでいると、ガチャリと屋上のドアが開いた。振り返るとそこには俺様の未来の嫁、生徒会長・花房仙司(はなぶさせんじ)がいた。おっほう、いつみてもイイ。

「…お前、裏のヒーローか」
うむ。
俺様のうわさは知っているようだ。超絶美形エロフェロモン大放出の俺様にかかれば、たった一回の制裁撃退でうわさになったのは過去の話だが。
今の俺ならこいつ口説いても大丈夫じゃねえだろうか?

「そういうテメエは生徒会長ちゃんじゃねえかァ。いいねえ、どうだ俺様と一発?」

ウブな俺様としては大胆に誘ってみたのだが、花房は華麗にスルーだ。

「…風紀委員長を知らないか」
「あん?」
そして何故か俺を探している未来の俺様の嫁。
「転校生…あいつの弟が探していて」
「……」
げろ。
最悪。

「はぁ〜〜…」
「?」
裏のヒーローの姿で出ていけば確実にばれる→周囲に知れる→キャラ崩壊→昴に説教される(あの保護者め!)→弟に更にべったりされる(制裁避けに)

「…ないな、ないないない」
「?」
「つか、アンタ。た…転校生とナカイイの?」
そう、お兄ちゃんはそこが知りたいです。まさか今までの阿呆ども(主に家の部下とか今までのクラスメートとか)みてえに惚れたとかぬかさんだろうな。んなことしたら監禁コースじゃい。

「いや…副会長たちに強引に探しにだされて。俺が良く遭遇するからと」
うん、まあそれは俺がプチ尾行(人はそれをストーキングと呼ぶ)をしてるだからだっちゃ☆
「それにしてもチャラついているな…組と名前を言え。風紀に報告する」
「2年B組三和国光で〜っす」
「ふざけるな」
うん、マジもんの本名なんだが。こんぐらいの冗談とばしときゃあ安心だ。

「言っとくけどさ〜生徒会長さんもチャラついてんじゃん?何そのピアス〜」
「…これは」
って、アレ。あのピアスみたことあんなぁ。どこでだっけ?ああ、今週の日曜町行った時買おうか迷ったピアスだ。風紀委員長ルックで行った手前、買えなかったんだけど(噂はどこでたつかわからんしな)。
つか、生徒会長穴あけてんだな、以外。こないだ耳見たら何もなかった気がするけど。

「あ」
そんなこんな考えていると、花房が近くまで来ていた。俺は急いでフェンスを降りてポケットから取り出した飴をしゃぶる。
「んん〜、今は俺様よりか風紀委員長優先にすればァ?」
そうしてくれると助かる。
今、花房を食っちまってもいいんだが。あ、ヤベ。想像したらぞくぞくしてきちった。

長いパーカーの袖から指を出して、じいっと爪の長さを確認。あちゃー。今日切ってない。これじゃ解せないしヤれないなあ。

「おい、聞いてるのか」
がしり、と腕をつかまれた。うっひょ、花房ってばそのイケメンフェイスいいね。泣かせたい――って
「あ?」
何やら花房が超驚いた顔してるわけなんですが。
なんで?

「裏の、ヒーロー…?」
「あ?」
「お前――」
何か花房の顔が、赤くなってきたような。もしや俺の超美形なご尊顔に惚れたか!

「三和…?」

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