四日目 午後



生徒会室に来て二時間。
そろそろ昼食という時間になったが、事態は一向に進まない。

「…おい、お前ら。いい加減会長にちょっかいかけんのやめえや」
「何故です?」
「…俺が会長と話せへんやろが」
「…はな、さ…なくて、い」
「よくないわ」

先程から庶務、会計、副会長が全力で会長の邪魔をしている。
具体的にいえば、会長は現在書記に再び羽交い絞めにされ、副会長がお湯のポッドをかまえ(危ない)、庶務が給油室においてあった果物ナイフをかまえている。
風紀がすっとんできてもおかしくない状況だ。
だがしかし、明りにとって重要なのはそうではなく――

「てか、お前ら!俺が演技しとんの気づいとるんやったら言えや!!寒いやんけ!俺めっちゃすべっとうやん!」


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引きこもり会計
四日目 午後

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「…お前、会長はどうした」

学園の食堂前でばったりと風紀委員長、江泉は当たり前の質問をした。周囲の生徒や風紀委員は、どうやら明が誰だかわからないようで、ひそひそと話しあっている。髪の色を変え、以前にこにこと作っていた表情を消せばこんなものだ。

「あ?なんかしらんけど、一向に話進まんもんやから。腹減ったし食堂言ってくるわ言うて、そしたら書記がついてこようとしてんけど、庶務と副会長が邪魔して、そっから会長も加わって大乱闘やな」
「おい、5人ほど急いで生徒会室に迎え」
江泉は急いで委員たちに指示し、自分も走って行ってしまった。生徒会内での喧嘩がまずいことくらい明も知っていたがもうなんとなくどうでもよく、スルーだ。

「…」
無言で食堂の自動ドアをくぐり、足を進める。昼時なだけあってなかなか込み合っている食堂は、明が入ると一瞬だけ静かになり、そのあとざわざわと五月蠅くなった。
『誰アレ…かっこいー』
『会計様に似てない?』
『ばっか、宇都宮先輩はもっと雰囲気が柔らかいだろー』
それらの声を聞き流し、明は周囲を見回した。

役員席と呼ばれる、生徒会専用の席もあったがなんとなく、今の容姿で、性格で座ると後にややこしいだろうと一般席を探す。

「ちょお、ここええ?」
「えっ、あー…おう」
二年では有名な方で、スポーツ少年として人気がある爽やか系男子、川口の座っている四人がけの席は不自然に空いていた。明が尋ねれば曖昧な返事を返したので構わず椅子を引く。
周囲の小動物系男子がきゃあきゃあと騒ぐが、明は注文用のタッチパネルをいじりながら聞き流した。

「えっと、もしかして転校生か何かか?」
爽やかな笑顔で尋ねられたが、明は黙ったままだ。完全な無視に爽やか男子、川口が少し眉間に皺を寄せる。
「聞いてる?」
「あ?聞いとうわ」
「あー…ならいいんだけど、あのさ。これから俺のだちがそこの空席座るんだけど、いいか?」
「ダチ?」
「あ、うん。夏休み前に編入してきた、簾藤翔(れんどうかける)って言う奴。知ってる?」
「…あん?」
聞いた名前は、生徒会役員と仲たがいする原因となったものだ。あの忌々しい3K転校生がこの席に座る――。
「…あかん、まずくなる」
「えっ」
「やっぱええわ。じゃ」
「え?急になんで?」
「…奴の信者いうんはなんでこう――」

言いかけた明の言葉をさえぎるように、大声が食堂に響いた。

「あーっ!!誰だよオマエ!」
「…あん?」
視界に移った人物に、明は盛大に舌打ちし、冷たい目で見下ろした。明の身長は176と、大きい方ではないが転校生は165センチと小さい。
「おいっ!返事しろよなっ!」
変装をとき、美少年とチェンジしてはいるが明の親衛隊隊長の方がはるかに格が上だ。ため息をついて、仕方なく、返答する。
「なんやねん、俺のこともう忘れてもうたんか?薄情なやっちゃなー」
「なっ…俺はお前のことしらないぞっ!自意識過剰なんだなっ、大丈夫だ!そんなお前でも仲よくしてやるから名前教えろよ!」

てめえに自意識過剰とか言われたないわ。

「…チッ」
舌打ちをして、入口に向かっていると何故かドアから会長が入ってきて食堂内に歓声が響き渡る。宇都宮は面喰ったような顔をした。
「は、なんで――」
「宇都宮!」
先頭の会長が、明に飛びついて、抱きよせた。親衛隊の悲鳴があたりを覆い尽くす。
「ちょ、風紀は!」
風紀委員長、何しにいってん!
言いたい気持ちを抑え、顔を寄せてきた会長の頬をつかむ。

「ちょおはなせ!どないなっとんねん!この展開!おま、ふざけんなや!」
至近距離での瑛のイケメンフェイスは心臓に悪すぎる。そうでなくとも、惚れた相手だ。心臓がもたない。
「お前が勝手にどこかへ行くからだ!」
「そんなん俺の勝手やろが!」
第一、自分は転校生のとこにふらふらしていたくせに!としかり飛ばしてやりたい。
自分がどれだけ苦しかったか、知らない癖に、と――付き合ってもいないのにそんなふうに考えてしまう。

「俺はお前が好きだ、…だからもう、どこにも行くな」

「…は」

キャーーー!!と、尋常じゃない叫びが食堂を埋めつくす。公開告白とか何してくれとんねん、とか、なんで今、とか。言いたいことはたくさんあったが、体中が、特に顔が熱くて何も言えない。ぎゅうぎゅう抱きしめられたまま、明は周囲の異様な盛り上がりを理解できないでいた。


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