終息
「…おもっ」
あの騒動から1カ月たった今日。今、思い返せばあっけないの一言だった。
朝の日差しがカーテンからきつく入り込み、早く起きろと訴えるのまでは我慢できたものの、自分に重くのしかかるものには我慢がきかなかった。
「おい!おきい!」
ばしばしと叩いて相手を起こすと、まだ覚醒しきっていない、ぼんやりした目を明に合わせた。
「うつのみや…」
ごにょごにょと名前を呼びながら、寝ぼけているのか明の顔にキスを落とす。なんやこのシチュエーション、キモッ!と客観的に思った明は、顔を引き離しがつんと頭を一発叩いた。
「うっ…」
「起きぃ言うとうやろ!」
「…チッ、相変わらずだな…」
あの後、明は会長とともに自室に戻り(生徒会では風紀と役員の乱闘真っ最中だったので)、お互いの気持ちを確かめ合った――まではよかったのだが。
『ならなんで、転校生なんかといちゃついとってん!このボケが!!』
と怒り狂う明が会長を殴り飛ばし、尋ねてきた風紀委員長に止められるまで明は会長に怒りをぶつけていた。
しかし、瑛はというと、そんなことはどうでもよかったらしい。むしろ当初の予定通り嫉妬してもらえたことに満足したとかなんとか。
ちなみに食堂での公開告白で盛り上がっていたのは会長たちの親衛隊だった。
会長は書記から明に心をよせていることをカミングアウトしていて(驚くことに小学生のころから瑛も明が好きだったので親衛隊ができてすぐに告げたらしい)、親衛隊はそれを応援すべく色々と行動していた。
食堂で見た明の髪が黒かったので一瞬誰だかわからなかったが、会長の告白でピンときたらしかった。一途でへたれな瑛が告白する相手は明しかいないと。
それで「ようやく告白かよ、おせえよ、へたれすぎだろ」という心中のもと、親衛隊員達は拍手喝さい、スタンディングオべーションとなった。
そんな二人は現在、役員たちの猛反対の元、一応「恋人」をやっている。
「起こすならもっと優しく起こせよ…いいことして」
「さぶいこというやな、ボケ」
片思い時代がふっとんでしまうほどの暴言を吐いた明は、背後から抱き締められて耳まで赤くなった。
好きなものは好きだ。
どうしようもないのだと、こういったふとした時に思い知らされる。
副会長から、庶務から、書記からも思いを告げられたがやはり一番好きなのはこの生徒会長、星村瑛だ。
俺様だろうと、へたれていようと、度胸がなかろうと、昔からずっと思ってきた相手への気持ちはそう簡単に変わらない。
幼い日に、転校してきたばかりで浮いていた自分に話しかけてきた瑛の笑顔を見たときから心を奪われていた。遊んでいるうちにどんどん、その思いはましていって。
小学生の時の純粋な気持ちは高校生になるころには美しい思い出となっていた。再会した時には心臓が爆発しそうで。
同じ生徒会役員に選ばれた時など――もう。言い表せないほどに、うれしかった。
そんな思いを、明は瑛に話はしない。調子に乗るからだ。
「…ちょお、会長。はなしぃ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、さすがにやばい、と感じた頃。会長が明の耳元で囁いた。
「……あー、やべえ。好きだ」
「……」
ちょっとまえの、告白すらまともにできなかった馬鹿は何処に。
耳がぞわぞわしてきて抵抗を強めると、体を話した瑛は捨てられた犬のような目で明りを見た。
「…」
「…」
自分が悪いことをしたみたいな空気になってきて、深くため息をつく。明は手を伸ばすとさらさらの髪を撫でた。
「…あんなあ、好き、とか…そういうことは、はずいから、あんま…言わんとってえや」
顔を赤らめて言う明に瑛はぼけっとしながらうなずいた。
「愛してんぞ、明」
「……」
悪化した…。
もうだめだこいつ、と思いながらも、明の顔は真っ赤に染まっていた。
「なんですか!この砂糖吐きそうな茶番は!!」
「うざ〜うざあ〜」
「…ぺっ……!」
今二人が眠っている生徒会長の部屋に侵入(書記のセキュリティハッキングのたまもの)した役員たちは扉越しにも感じる甘い雰囲気に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
ちなみに転校生はその後、取り巻きの一人の平凡に完全に惚れ、べったり状態となったらしい。学園内では平凡が飼い主、転校生がサルと言われている。
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