三日目 午後



「頼むから一度生徒会ときちんと話をしてくれ…」
「…ふはっ!」
半泣きになりながらすがりついてくる風紀委員長に失礼ながら明は笑った。
「ま、まさかあんたが泣いとう姿みることになるとはなあ…」
「笑いごとではないし泣いてはいない!…本当に、奴らはお前を嫌ってなどいないんだ。むしろ愛されてるぞ」

もうこれ以上黙っていたら自分が危ないので風紀委員長はとうとう切り出した。
「はあ?なんやそれ」
「…実を言うとだな…お前の料理を食べたことをくちを滑らせて漏らしてしまい…生徒会連中に知れたんだ」
「はあ」
「……それで、嫉妬というやつを喰らった」
「…あ?」


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引きこもり三日目
9月5日 午後

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「なんやて?嫉妬?」
「ああ…そうだ、その通りだ!もう頼むから奴らときちんと話し合ってとにかく風紀を巻き込むんじゃない!!」
「人に飯つくらせといてなんやねんその言い草!」
「会長はお前が料理をできないと嘘をついただの、なんだの言っていたぞ!」
「は?できへんで、つくれんのはお好み焼きとタコ焼きと焼きそば、あとはそば飯くらいやな」
「…なんだそれは?」
「ボンボンやな自分…」

お好み焼きは切って混ぜて焼く。
焼きそばは焼いてソースかけるだけ。
たこ焼きもしかり。
関西人なら自分で作れる人は少なくないだろう。明の場合はほかの料理も作るが、会長に作れと言われた時は、舌の肥えた会長に出せるようなものは作れないと思い、断った。

「てか嫉妬て。何の勘違いやねん、あいつら転校生が好きなんやろ?」
「あれは…平たく言えばお前の気を引くためのウソだ」
「…あほか、お前。そんなんとちゃうやろ」
「そんなんなんだ…」
風紀委員長は明のにぶさにがっくりとうなだれた。
「頼むから…ちらとでもいいから話を」
「書記からかかってきた電話に言うといたで、生徒会やったらお望み通りやめたるってな」
「なっ…なんということを!」
「やかましい、俺の勝手やないか」
「くっ、と、とにかく!俺はもうここには来ないからな!」
「頼んでへんわ、ボケ」
「買い出しも手伝わない、食べたければ食堂に行け」
「別に授業中に自分で行けるし」
「言っておくが今はコンビニという名のスーパーはあいていないぞ」
「は!?なんで!?」
「会長たちがお前をあぶりだすために手続きしてとめているんだ」
「あのボケ…っ、俺を餓死させるつもりやな!」
「違う!頼むからあいつらに会って直接話を――」

ピンポーン

「…」
「…おい、お前つけられたんとちゃうやろな」
「ま、ままままさか。俺がそんな」
「……はー…」
インターホンの受信機ディスプレイには、はっきりと会長、星村瑛が映っている。
「…いっちばん会いたないやつがきおったな」
「す、すまん」

関わりを持った以上、尾行をされるのは目に見えていた。風紀委員長は強制的に明と会長を離し合わせるためにこのようなことをしたと言っても過言ではない。

「マスターキーではいってくるつもりはないんやろか」
「そんなことをすれば、お前に嫌われると思っているんだろう」
「…あんたの、その、会長が、嫉妬したいうんは…ほんまなんか?勘違いとちゃうんか」
「それはない」

きっぱりと断言し、風紀委員長は真剣な顔で明を見る。
「奴はお前のことが好きなんだ」
「…はっ、ないわ、そんなん」
なにが、気を引くためのウソやねん。俺はあんだけしんどい思いして、仕事しとったのに。会長が半分仕事しとったんは委員会議の時、書類のサインを見て知っとった。だから怠慢していなかったことは知っている。けど、一人の生徒会室が何よりさびしかった。今までわいわい、皆でやってきて。キャラ保つんは大変やったけど、皆優しくしてくれとって。

せやから急に空っぽになった部屋は酷く、空疎なもんやった。

会長は俺とは仕事したないんや、とか。
役員は俺とは結局、友人でもなんでもないんや、とか。
色々考えて考えて。
ああ、もう辞めよう。
そう思った。

今更、仮に会長の気持ちが俺にあったとしても――素直に喜べない。

「…奴はお前の何に魅かれたと思う」
「…知らんわそんなもん」
「俺が聞いたら、あいつは全部と答えた」

―――笑える。

「俺のキャラづくりのことも知らんのに全部?なんやそれ、なんの冗談や」
「…あいつ、知ってたぞ」

一瞬、明の思考が止まった。

「は…?」
「お前、小学生の時、会長と同じクラスだったんだろう?…友達、だったんだろ」
苗字が変わり、容姿もあれだけ変わったのに、何故覚えている。
意味がわからず、明は目を泳がせた。
「そ、んなん聞いてへんし…なんやそれ。あいつ、なんで」
「昔からお前はちっとも変っていないと言っていた。明るくて…心がきれいなやつだと、あいつはのろけにのろけていたぞ。…俺にジャイアントスイングしながらな、吐くかと思った」
あいつは、余計なことたくさん吐いてたけどな。

江泉風紀委員長の話を聞いて、明の頭がぐちゃぐちゃになる。最初から、知っていたのか。俺の印象が明るくて、心がきれいだなんて、あいつは思ってたのか。
綺麗って容姿じゃなくて、中身のことだったのか…。

「…っ、あっかん」

許容範囲を大きく超えて、明は思わずソファに体をうずめた。

「…明日話すいうといて」
「…ああ、わかった」

江泉があまりにうれしそうな顔をするので、明はいらついてクッションを投げた。




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