引きこもり二日目 午前



風紀委員長は耐えがたい生徒会室の空気に思わず窓を開けた。勿論そちらの空気ではない。
「何をやっている貴様ら!」
「みりゃわかんだろ、電話かけながら仕事やってんだよ」
「見てわかりませんか。仕事しながらメールしてます」
「み…わか…れ…」
「ちょっと、面倒なんではやくでてってくださいよお!風紀委員長!」

「…」

会計が辞任後、とうとう最後の砦がいなくなったと思っていれば生徒会室には役員が全員そろい仕事をしている。それは微妙に嫌な予感がする風景だった。
「どういうつもりだ、貴様ら…」

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引きこもり二日目
9月4日火曜日

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「んっ…」

よほど疲れがたまっていたのか、明が目を覚ましたのは翌日だった。ぼうっとした頭で、パンツ一枚のまま起き上がり、冷蔵庫に向かう。ミネラルウォーターを飲んでいると携帯の着信が鳴り響いた。

「なんやねん…チッ」

寝起きが悪い明は携帯を睨みつけながら開いた。
「あ…?」

着信、127件
メール、134通。

「…はあ?」
なんやこれ、気色悪。
顔をしかめながら、送ってきた人物名に目を通す。
「…」
生徒会長の名前を見つけ、一瞬心臓が跳ねた。
メールの内容で素直に謝られていればなおさらだったのだが――そうではなく。
『出て来い』
の一言だけ。

書記、副会長、庶務からも同じような内容だった。
なんだその立てこもった犯人に言うようなセリフは。

本気でいらりときながら、明は携帯をかたい床に落とした。

「ほんまなんやねん…今更」
自分の恋心を、弄られ、蹂躙されている、ここ数カ月のことを考えればこんなメールがきたことは不思議ではあるものの。それはおそらく、仕事を押し付ける相手がいなくなっただとか、そういった事情での事に過ぎないに違いない。
そう考えた明は頭に血が上り、苛々をソファにぶつけた。ばすん、と殴った高級ソファは衝撃を吸収してしまったようだ。
「うっとうしいねん…もう一生関わりとうないわほんま」

いっそ、新しい恋でも探すか。
そんな風に考えながら寝がえりを打った時、インターホンが鳴った。
「…」
この部屋に越したことは、寮監以外には伝えていない。生徒会連中にも言わないよう、寮監にはくぎをさしてある。
「…どなたー?」
やはりパンツのみで受信機を覗き込めばそこにはきっちりと制服を着込んだ風紀委員長、江泉匠(こうずみたくみ)が立っていた。面識はどちらかといえばゼロで、夏休みや他の役員の愛のサボタージュあたりからはよく風紀に書類提出に言っていたので顔は見たことがある程度だ。

『…江泉匠だ。話がある』
「おことわりします、じゃ」
『待て!』
「あぁ?」
苛々のせいでガラの悪い声を出すとモニターに映る風紀委員長は目に見えて動揺した。
『お前…宇都宮か…?』
「は?なんやねん、人の部屋きよってわけわからんこといいよってからに」
『…とにかく話がある』
「断る言うとうやろ。どーせ辞任の件に関してやろ、帰った帰った」

そのままぶつりと通信を切って、ソファに寝転がる。その数秒後、何故かドアのロックが外れ誰かの声がした。
「邪魔するぞ」
入ってきたのは風紀委員長で、どうやらマスターキーで開けたらしい。

「げっ!?職権乱用やぞ!」
「…お前、本当に宇都宮か」
「あ?」
「何故裸なんだ…」

パンツはいとうやんけ。
愚痴を言いながら風紀委員長にとりあえず服を着ろ、と言われたので面倒そうに服を着ていく。
「風紀的に、役員全員いのうなったらまずいんか?」
だから自分を抑えに来たのか、といらつきながら宇都宮は尋ねた。
「いつものキャラは演技なのか…?それに髪も何故もどして…」
「あーもう、面倒くさ!勘弁してえや、別に人の勝手やろそんなもん。この学園に演技するなとかいう校則ないやん」
「…まあそうだが」

それで、用件は?
切り出した明に、風紀委員長が言い辛そうな顔をした。

「…とりあえず、だな…奴らも反省していることだし生徒会を辞めるのは考え直せ」
「は?冗談きついわ」

ぴきり、と青筋を浮かべた明は風紀委員長を睨みつける。

「反省したゆーて、奴ら今どないしとんねん。まさか仕事やっとんか?」
「…実はそうだ」
「はっ、じゃあそのままやらしときーや。俺はもう夏休みに一生分仕事しとってんし」

今更仕事しだしたからなんだという、その主張は正しい。
「それに俺が辞めてから仕事再会したっちゅーことは、俺によっぽどおらんくなって欲しかったんとちゃうか?」
自嘲的に笑んだ明に風紀委員長は言うべきかとことん悩んだ。

全くの逆であると。



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