引きこもり一日目



ピンポンパンポーン

『はろー★宇都宮会計でーっす!今日は俺からだあいじな話があって授業中に放送させてもらってまっす!ごめんねえ、ちょっとだけ聞いて?』

まだ授業中である時間に校内放送が鳴った。突然のことに教師まで授業をストップし、放送に聞き入っている。
宇都宮とは、生徒会会計の宇都宮明(うつのみやあかり)のことである。
校内抱かれたいランキング4位。抱きたいランキング2位。チャラチャラしているが物腰柔らかで誰にでも優しく人気が高い人物だが、最近転校生がやってきてからというもの姿を全く見せなかった。
親衛隊の生徒は、放送にきゃあきゃあ騒ぎだしたが次の言葉で沈黙する。

『俺生徒会っつーか会計やめまぁす。以上』

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引きこもり一日目

9月3日月曜日

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◇9月2日日曜日

「ありえん」

わざわざ外出許可をとってまで外に出た生徒会会計、宇都宮明は苛々を抑えることなく、苦笑いする美容師に愚痴をこぼした。やってきたのは贔屓にしている美容院である。

「仕事サボって転校生とデート!はあん!大層な夏休みですやん?ケッ!ほんっま、奴らの頭にはマシュマロでもつまっとんちゃうか!」
「明君今日荒れてるわねえ〜」
「当然やッ!でももう決めた!俺はもう会計なんぞやめたる!キャラづくりもまっぴらごめんこうむるわ!」

それでこの髪色に、と納得した美容師は見た目は男、中身は女子。その名は山吹健太郎という。カラーリストを見せ、指差されたのは普段染めている綺麗なハニーブラウンではなく、純粋なる黒だった。

「わざわざ黒にしなくてもいいんじゃないのぉ〜似あってるのにぃ〜」
「ハァ!?けんちゃん冗談きついわ!転校生と髪色かぶって生活していくとか耐えられんねん。腹切って死んだ方がましやわ」
「…その転校生ってどんな子なの」
「3Kやな。キモイ、汚い、空気読めないの三拍子や」

吐き捨てた明は、髪を染められながら7月からのことを振り返った。
7月。季節はずれにもほどがある転校生がくる→副会長が惚れる→書記が惚れる→庶務が惚れる→学園の人気者が次々毒牙にかかる→会長が陥落。
この流れは非常に嘆かわしかった。
7月中はまだ良かったが、8月になると役員は夏休み中ある文化祭準備の仕事などをまるなげし、転校生とバカンスに行った。お陰で明は夏休みを仕事でつぶすことになった。
親衛隊の暴走を抑え、仕事をこなし、元々細身だったがますますやつれた明は最終的に自分が築き上げたキャラクターがあほらしくなり、ついでに生徒会もあほらしくなり、明日からはやめることに決めた。

元々のこのキャラの発端は生徒会長の言葉である。
今となってはもう黒歴史だと断言してしまえるが、明は生徒会長、星村瑛(ほしむらえい)に惚れていた。小学生の時、関西から越してきたばかりの時に親切にされ、女子慣れしていなかった明はホモ学校に入ってすぐに男を好きになった。それが瑛だ。
瑛は小学生ながら、ファン(そのときは単なる取り巻きだが)に尋ねられた好きなタイプに対し『明るくて、綺麗な子』と答えた。
その後、母の再婚で再び関西に引っ越した明は高校生になり再び外部生として瑛と再会することとなった際に性格、それはもう口調から容姿まで変えた。
以前は関西弁でしゃべると色々といわれるので、無口でいたが明るい子がタイプとなれば努力するしかなかった。
苗字が変わり、容姿も成長していたためばれず、結局人気が出た明は『チャラ男会計』という称号がついていた。ちなみに生徒会入りは一年の11月からであった。

だがしかし。
そんな恋心を維持していたにも関わらずの転校生来襲、そして惚れただのなんだのの騒動。仕事地獄。明はもうこんな日々に嫌気がさしていた。

「もうええねん。俺はもう決めた。なんやしらんけど、見た目がゆるいせいで『セフレがおる』とか言われるし。アホちゃうかって感じや、転校生もうるせえしなあ。第一『明るくて、綺麗な子』がタイプやったらなんであんなゴキブリみたいな男に行くねん!ありえへんわ!なんやアフロみたいなヅラかぶって、だっさい眼鏡かけて変装やて!あほか!ダボ!死ね!」
「中身は綺麗だったの?」
「俺と同じ髪色。まあうちの親衛隊隊長レベルやわ」

美容師健太郎は学園出身なのでこの手の話は通りやすい。

「はい、できたわよ〜カットはよかったのよね?」
「おー、ありがとうなあ」
「いいえ〜頑張ってね。明君」
「おうっ!明日から引きこもったるわ!」

そして9月3日。


「あかん…天国や…極楽極楽」
寮監に話をつけ、普通部屋に移動した明は広い風呂場でゆっくりと湯船につかりながらフルーツオレを飲んでいた。
「あー…寝そうやわ…ねんむ」
ここしばらくの寝不足は体に思いのほか響いていた。明は先程、放送をし辞任宣言をしたので今後は単位の決まるテスト以外はサボるつもりだ。この学園はテストさえよければ卒業できる。
フルーツオレを飲みきった明は、パンツだけはいて、広々とした一人部屋のリビング中央、ふかふかのソファにうつぶせになりそのまま意識を飛ばした。
「ごくらく…」
もう生徒会とか知るかボケ。


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