05



(魔王様視点)

「……」

少し固いベッドに、四角いクローゼット、小さなテーブル。見たことのある家具だと思ったけど、ここが例の学園なら、寮部屋に備え付けられている物だ。昔、視察に来たときに見た。

部屋は若干いじれているものの、シンプルにまとめられていて、鶫くんのきっちりとした性格が表れていた。

「…それにしても、が、がーねっと…怒ってるでしょーか…」
帰ったら書類が山のように溜まっているかも。うわぁ。嫌…。
昔、一度だけ逃亡したときは、一人で管轄外の魔獣討伐に行かされましたし…。
「魔王になんてなるんじゃなかったです…」
「そういわにゃいでにょー」
「!!」

声がした方を見ると、サキュバスがにこにこ笑って立っていた。
「…う、うらぎりもの!!!」
「えっ、にゃんで!?」
「ががががーねっとの命令できたのですね!!!!かえりませんかえりませんかえりませんよぉ」
ベッドにしがみついて泣くと、サキュバスは「ちがうにょー」と間の抜けた声を出した。

「ガーネットには内緒できたにょ。魔王様にもお休み必要じゃにゃい?他の大臣にもガーネットには内緒で協力してもらうから、しばらく人間界で休んでいいにょー」
「えっ?」

ぽかん、とマヌケな顔を晒して、サキュバスを見る。人間界にいる猫みたいな耳がぴくぴく動いた。
「い、いいんですか…」
「お仕事は皆で死ぬ気で終わらせるしー一週間だけだにょ?」
「一週間…」
長いような短いような。
「わか、わか、わかりました。いっしゅうかん、です、ですね」
「ん、十分注意してにぇ?」
「はい…」

お休み…夢のようです…。ああ、何しましょうか…。人間界を観光するというのもいいですね…。一度行ってみたかったのです、ネズミーランド!!魔界には遊園地は絶叫系(その上ハードで、途中空中に放り出されたり、地面にたたき付けられそうになるもの)ばかりですし、かわいいマスコットキャラもいませんし。

「にゃ、これ。人間界のお金。財布に入れておいたからにぇ?ここ出てってホテルにでも泊まれば?」
「ほてる…」
世間知らずレベルが高すぎる私にはホテルを予約したりできそうな気がしないんですが…。

それいじょうに。
鶫くんに…お世話になるのは申し訳ないですが、一緒にいたいというか…。

「さきゅばす…そそそその」
「にゃにー?」
「人間と、そそ、その、結婚とか…えとえと…ダメなんですかね?」
「にゃぁっ!?えええええ何で急にそんにゃ話に!????」
「…美味しかったんです、鶫くんの血」
「つぐみくん?もしかしてここの家主さん?」
こくり、と頷くと、サキュバスは、うーん、と悩むような仕種をした。
「それってどのくらい?」
「今まで食べたなかでいちばん…」
「…にゃあ…」
お手上げ、とでもいわんばかりにサキュバスは肩をすくめた。
魔続の間では、異族結婚があまり存在しない。鬼族は鬼族と、悪魔族は悪魔族と結婚する。だけど、唯一イレギュラーなのが吸血鬼族なのです。吸血鬼はいろんな意味でイレギュラーなのですが、そのなかでも結婚は特殊で。

運命の相手、とでもいうのでしょうか。吸血鬼族は唯一一人にしか恋をしない。そしてその一人の血がとんでもなく美味しく感じる。
私はまだ、「恋」という経験はなかったのですが。
鶫くんに触られたりしたときの、あれ、が恋の感覚なのかもしれない、と思った。

「うぅーん…人間と結婚かー…あれ、ここの家主…」
「男ですけど…」
「だよねー…妃にってのは、難しいかにゃー」
「……」

でしょうね。まだ魔族で人間を好いていない種族は少なくない。私に賛同してくれても、人間自体にいい感情はないらしいんです。

「魔王様がにぇー…説得にまわることになるよにぇー…一種族ずつ」
「…でも」

こればかりは仕方が無い。
「まだ確信ないんでしょ?にゃら、もうちょい様子見してさぁ」
「…はい」


折角お休みですし、この一週間でなんとか、鶫くんが自分の運命の相手?かどうか見極めなければ。

私は決意を胸に、眠りについた(眠いんだから仕方ないです)。
(5/38)
←prev next→


[Top]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -