06



(鶫視点)

俺があの変な魔族、ヴァンを拾ってから三日たった。
学園は授業はあるものの、魔族のセンセー達は何やら忙しそうにしている。多分、魔王が行方不明だからだ。

魔王サマは相変わらず消息がつかめないらしい。それを正直に報道しているところをみると、何か大問題、という感じではない。

いうなれば「うちの犬が家出した」みたいな扱いだった。記者会見?している魔族も「まぁそのうち見つかるでしょう」みたいな態度で。なんかすげえはらたつ。
確かに魔王サマがどっかでくたばるとか、そういうふうには思わない。だが、本腰を入れて探さないのはどういうわけだ。

苛々しながら寮に帰ると、ヴァンは寝こけていた。センセ―に頼んで追加してもらったベッド(備え付けのよりもかなり高級っぽい)の上ですやすやと寝息をたてている。こうして見ていると、ただの人間だな。
頭を撫でてやると、とろとろと目を開く。ぼんやりとした表情が妙に色っぽいが、いまだに隈は消えていなかった。
「…つぐみ、くん?」
「ただいま」
「お、かえりなさい…」

ぎこちなく微笑んで、体を起こしたヴァンは、目をこすってからキラキラしたまなざしを俺に向けた。
「今日は…、どこに、い、いきます、か」
「…そーだな」

ヴァンは色々な話をしてくれる。俺が魔界について尋ねると嬉しそうに教えてくれた。魔界は魔王と13人の幹部によって守られているとか、実は電子機器も発達していることだとか。
そんな話を聞く代わりに、俺が色々な場所に案内している…というのが現状だった。
あー最近チームに顔出してねえなァ。

「今日は俺のダチんとこ行くか?」
「…ご友人?」
こて、と首をかしげたヴァン。なんかこいつ…こんなボケっとしてて魔界で生きていけんのか?
「ああ、あー…バーに集まる予定なんだけどよ」
「お酒を飲むところですか?」
「ああ…、ちなみにヴァン、何歳だ?」

そういえな、基本的なことを聞いていなかった。訊ねると、ヴァンはうーむ、と唸った。
「わかりません」
「は?」
「え、えと…吸血鬼は、ね、眠ってる期間が、ながい、ときが、あるので、その…歳は数えなかったりします…」
「…マジで?」
「えと、でも、お酒は飲めます」
だろうな。
つーことは、大分俺よりは年上なんだろう。


…見えねー。

「じゃあ、行くか」
「は、はい…」
ヴァンに適当な服を着せて、長い髪を後ろで結ってやっていると、連絡端末が着信を告げた。
「なんだ?…オタクじゃねえか」
『鶫サマなにしてんのー』
「それやめろ、今からバーに行くとこだ」
『…ふーん、もしかして噂のオトモダチと一緒?』
「…あぁ」

くっそうぜえことに、俺が誰かを寮に連れ込んでいる、とうわさが広まっている。確かに、いつもチームの奴意外とつるんだりしない俺が誰かと歩いていたら目立つだろう。仕方がない。
『ふーん、俺もあってみたいなァ、てか、誰?』
「お前には関係ねーだろ、じゃあな」
『ちょ…』

強制的に話を終わらせて、戸惑うヴァンと学園の外に出た。以前、魔獣にやられて崩壊していた町も、魔王の指示で復興された。しかし、そうなってもいまだに魔族を憎む奴はいる。

俺みたいに、魔王に対して好意的な奴は、少ない。どちらかといえば中立的な奴が多い。だからこそ、心配なことがある。
今、魔王は不在だ。この機をレジスタンスの奴らが逃すとは考えにくい。もしかしたら、近く反乱が起きる可能性がある。そうなったら、中立の奴らはどうする気なのか――。

「つ、鶫、くん?」
「あ、いや、悪い…」
険しい顔をしていた俺を、怪訝そうにヴァンが見た。しかし、その表情はとても穏やかだ。
「…おき、おきます」
「は?」
「……」

それっきり、何も言わなくなったヴァンに、俺は首をかしげた。
(6/38)
←prev next→


[Top]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -