04




(魔王様視点)

私の名前はヴァンタイン。魔王です。
でもなりたくて魔王になったわけじゃない。12年くらい前――私は元魔王の参謀として働いてました。
と、いっても、一日2時間くらいだけですけど。お給料がよくて、屋敷から魔法陣で通っていたので不満はありませんでした。

最近はテロが多くて、お勤めはかなり面倒なものばかりだったけど、まぁいいか、とお給料分は頑張ってました。

――けどある日。

「お前、魔王軍参謀のヴァンタインだよな?」
「……ふぁい?」
王宮の食堂で鬼の血のスープを飲んでた私に話しかけてきたガーネットは、そのころ、魔王軍の将軍でした。
「えーと…そう、ですけど……」
「…お前に話がある、悪い話じゃねえとは思う。時間とれるか」
「これ食べ終わったら屋敷に帰って寝るので…その前なら…」
「(寝るの早いな、流石吸血鬼族…)」

友達がいない私は、あまり人としゃべるのが得意でない。屋敷に人を招くこともあまりしないので、正直緊張しました。
けど、話をしてもっと緊張しました。

――ああ、このときの誘いに乗ってなかったら、私はいまもだらだら過ごせてたのに。


「あ、起きたかよ」
「……んぅ?」

王宮から逃げ出して、どれくらいたったのか。私の目の前には、人間の少年がいた。
「…(くんくん)」
「…なんだよ」
ベッドの隣に座ってる少年の匂いは、どこかで嗅いだ事があるようなにおいだった。
「(どこで……と、い、いうか…)」
懐かしいようなにおい。けど、それ以上に、美味しそうな匂い。

「アンタ名前は?魔族サマ」
「…ヴぁん、ヴぁんたいん」
「ヴァンタイン?なげーの。ヴァンでいい?」
「は、い…」
目を細めて笑う少年は、私の眼の下を指でこすった。
「ふ、ぁ」
「隈、まだ残ってんのな。大分ねてたのによー」
「…うぇ…?」

わしゃわしゃ頭をなでられた。うーん…っと。

「あ、あの、あのですね…あの、あなたは?」
「あ?あー篠原鶫。なんかあんたが学校に倒れてたから助けたらセンセ―に面倒見ろっつわれたんだよ」
「えと、えと…」
ここが例の学校だとして、センセー、が魔族だとしたらヴィテかターナーくらいしか思いつかない…。

「えと、ヴィテですか?それともターナー…?」
「あーヴィテセンセ―。やっぱ知り合い…つーか、アンタどっかいいとこの人?貴族?」
「今は魔界に、き、貴族…ないです」
「え、マジで?そーなんだ」

魔界事情は人間界にはあまり知られてない、のか…。

「…えー…助けて下さって、どうも…その、あ、ありがとうございました…」
「…まーいいけど…俺、チームの集まりがあっから、行くんで。その辺好きに使っといて」
「ちーむ?」
はて。
チームってなんでしょうか…く、くらぶかつどうというやつでしょうか…。
「あ、あの、あの。お腹すいたんですけど、なにか、あの、ありますか、その」
「…魔族って何食うの。センセーみたいに血?」
「えと、あの…私の場合は、まぁ…」
「…アンタ吸血鬼かよ、へえ」

鶫くんは、なんでか自分の手を私に差し出した。
「飲む?なんて――」

かぷ、とかみついた後でしまった、と思った。条件反射でやってしまった。
「す、すすすすすみません」
「いや…いーけど。出来れば手から飲まないで。こえーよ。手が干からびそう」
「えと、そんなごくごくのま、のまない、ので。あのその、どっちかというと、舐める感じで…」
ごくごく飲むときもありますけど。それは一カ月に一回くらいで。吸血鬼は血じゃなくても普通の食べ物も食べます。
そう説明すると、へー、と興味深そうにうなずかれた。

「じゃあ舐めれば」
「…い、いただきます」

ぺろ、と先程かみついてできてしまった傷に舌を這わせる。
「ん、ぅ…」
「…っ」

――美味しい。
なんだこれ。こんなの、初めてです。

「…鶫君、って、って」
「?何?」
「…なな、なんでもないです」


吸血鬼にとって、美味しいと感じる血は一族によりますが。人間はその中でも一番おいしくないはず。なのに、美味しい。
例外は、ただひとつ。

その人が自分の――。


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