アンラッキーガールと幸村

残念ながら私は運のない人生を歩んできた。
なんでもないところでも転ぶし、気がつけば面倒なことにも巻き込まれる。
当番制だったはずの学校の掃除だって一年中やってきた気がする。

ハァ。
溜息が止まらない。

「ついてないなー」

本日は日直だった。しかも、もう一人の日直は授業が終わるとさっさと部活に行ッてしまったのだった。
黒板消し、日誌、日直の仕事も人よりこなしている気がする。
しかし、慣れたからと言ってこれから先に屋に立つのかと言えばそんなこともない。
ふと学校の窓を見ると、
「雨だ」
今日は降水確率10%っていってはずのジャン!!
もちろん私は傘なんて持ってきてない。
「不幸だ。」
なんで生きているんだろう。
しょうもない不幸の積み重なりだが、こうも重なり会えば嫌になる。

「あれさくらさん?」

一人しかいない教室に誰かが入ってきた。振り返ると、
「幸村君…?」
立海中で知らない人はいない、幸村君だった。
今年は同じクラスだったが、特に接点はないので話すことはない。

「まだ居残ってたんだ」
「日直だからね」
「あれ?もう一人は?」
「それが、…部活行っちゃって」
「責任感のない奴だなぁ」
自分のことのように怒ってくれる幸村君に少し気がまぎれる。

「でも、もう帰るんだろう?」
「うん、そうしたいんだけど…」
「?」
「傘忘れちゃって」

ううう、初めて幸村君と話すことがこんなしょうもないことだなんて…。

「なんだ、俺、傘持っているから送るよ」
「えっ!?」

そんなまさか

「そ、それはさすがに…」
「なんでだよ、さすがに目の前でずぶ濡れで帰られる方が俺は嫌だよ」
「うう、でも…」
「はい!決まり!別に皆帰ってるし茶化されたりしないよ」

少しの強引さと優しさがつまった幸村君の言葉で私は幸村君と相合傘をすることになってしまった。

朝の晴天はなんだったのだろう。
ザーーーっと音がするこの雨天。

「フフ、今日は降水確率90%っていってたのに傘を忘れるなんてね」
「えっ!?私が見た時は10%だったのに」
「それは午前中の話しだろ?午後から大雨になるって何処の番組でも言ってたよ?」

ええええ、これ私の不注意だったのか!?

「でも、それでさくらさんと帰れるんだから、感謝しなくちゃね」
「ええええ」

ゆ、幸村君はリップサービスがいい!そんなケロリと女の子に嬉しいこと言えるとは…!?

「ふふ、顔真っ赤」
「うぅ…」

そんな余裕たっぷりに話せるなんて!さすが幸村君は違うなぁ。
そう思っていると、不意に大きなトラックの音がした。

ザパァァァっ!
大きな水しぶきとともにその大量の水は、

「、、、、さくらさん…?」

私の方へ…
水たまりが大型トラックが通り過ぎたことでそのたっぷりの水が私の全身にかかった。
しかし、幸村君はとっさに運動神経が働いたのだろう、全く水をかぶっていない。

「大丈夫かい…?」

幸村くんは鞄の中からとっさにハンカチを出して私にかかった水を拭う。

「もうやだ…」
今までの不運が走馬燈のように駆け巡る。
ポロポロと出てくる涙を止めることはできない。
「うぅ〜」
「さくらさん!?どうしたんだい!?」
突然水がかかっただけで泣きだしたのだから、幸村君も驚いた。
けど、私の涙は急にとまらない。
「なんで私だけ…。」

皆上手くよけれるし、上手いことなんでもやってるのになんで私だけ…
苦しい、苦しい…

ギュッ。
そんな時、突然体が力強い腕に抱きしめられた。

「幸村君…?」
「なんで泣いているのかは、よくわからないけど」
「私、ずぶ濡れだから、濡れちゃうよ…」
「別に、いい」
「でも、」
「俺君が泣いているの見ると、なんだか困るんだ」

幸村君は、しばらく私を抱きしめていてくれた。
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しばらく経って、私はだいぶ落ち着いたことを確認して、また幸村君と歩き始めた。
ポツポツと私は今までの境遇を話しだす。
「不幸?」
「うん、生まれつき、なんだか不運で」
「…」
「一つ一つはしょうもないんだけど、重なって…今さっき爆発して…」
ご迷惑おかけしました、と続けた。

「そうなんだ、だから…ね」
しばらく幸村君は考え込むしぐさをした。

「そうだ!今度からできるだけ俺が一緒にいるようにするよ!」
「えっ!」
「そうすれば君が困ったことがあっても助けられるし」
「い、いやそこまでしてもらうのは…」
そんな今日はじめて話した人にそこまでしてもらうのは…
しかも、幸村君だし。
「でも言っただろう。君が泣いていると困るんだよ。俺は」
なんで?そう聞きたいけどなんだか聞きたくない、ような気もする。
「よし、決めた!明日からよろしくね!」
そして幸村君はニッコリ笑うと私の鞄も持って先へ進んだ。
ご、強引だ…!
「で、さくらさんの家どこ?」
強引なのに優しい。幸村君は不思議だ。
ニコニコと手を差し伸べる幸村君がとっても輝いて見える。
今までの不運はこの為だったのかと思うと、なんだか許せそうな気がした。



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