初犯彼女と幸村

衝動でやってしまった。今は後悔している。
そんなワードが頭をかすめ、私はただただ幸村のジャージを羽織りながら茫然と幸村を見ることしかできなかったのだった。
こうなった原因は、しょうもない。
3カ月ほど前の11月晴れて私は幸村と付き合うことになった。
じんわりと距離が縮まっていた私たちに「やっとか」とチームの仲間たちに冷やかされたり、そこからクリスマス、年末、お正月と恋人イベントをこなしてきた私たちだったが、3学期にもなると部活が忙しくなり、テストがあり、忙しくて幸村と話す機会が減ったのだ。
いつも通りのマネージャーと部長に戻っただけなのに、休み中は密接してきたせいか、少し寂しくなった。
そんな時だ。いつものように使用済みのタオルを洗濯しようとすると幸村のロッカーからはみ出ているジャージを見つけた。
最初はロッカーに戻そうとしたのだけれど…
「幸村の匂い」

変態だ、と思いつつも、しばらく遠い存在になった幸村への寂しさが止まらなかった。
くん、と匂うだけでも嬉しくなって、羽織ってみると幸村に抱きしめられているような気になってしまった。

「あっったかい」
しばらくこうしてたいなぁ、と思っていたところ。
「さくら、いったい何して、…」
帰ってこないマネージャーを呼びに来たのだろう幸村と、…会ってしまった。

気まずい。
シーン、とした空間に幸村と2人きり。
以前なら超うれしいところだが、今はダメ!!!

「な、に、やってるの?」
幸村が口を開いた、そして停止していた私の頭も動きだした。
「ち、ちがうの!!幸村のロッカーにジャージが挟まってたから直そうと思って!!」
「…直そうと思って、着たの?」
あーーー!!ダメだコレ!!
無理だこれ!!なんだこれ!!
言い訳が思いつかない!!


しばらく頭をフル回転させたけれど、無理なことを確信した私は正直に言うことにした。

「う…幸村としばらく話せてなかったら、…、ジャージで寂しさを解消してました。」
うぅぅ…恥ずかしい。恥ずかし過ぎて幸村の顔が見れない。
穴があったら埋めてほしい、私を。

「はぁ」
幸村がゆっくり息を吐いた。溜息だろう、絶対私に呆れているのだ!!
いたたまれなくて顔をあげると
「ゆきむ…らっ!?」

思ったより幸村が近い!!なにこいつ!風林火山でも使ったの!?
吃驚して仰け反ろうとしたけど、幸村の腕に抱きしめられそれはかなわなくなってしまった。
ぎゅ〜〜〜っと擬音がつきそうなくらい抱きしめられると、戸惑いが溢れる。

「かわいすぎだろ」
ぽつりと幸村が言った言葉を私は聞き逃してしまった。
「ねぇ、幸村、はなし…」
「俺と話せなくて寂しかったんだ」
私の言葉を無視して幸村は続けて行く。
「寂しくて俺のジャージを着て嬉しくなったんだ」
「う…」
「もしかして、前からしてる?」
「それはしてない、初犯です」
抱きしめながら、一つ一つ事実を確認させられる。尋問みたいだ。
「ジャージだけで満足?」
「そ、れは…」
ずるい、そんなの決まってる。
「本物がいいです。」

やっぱり、ぎゅっと抱きしめてくれると心がキュンキュンして鼓動がうるさい。
やっぱりすきなんだなぁっ、て思ってしまう。
そうすると幸村は一旦離れて私を見る。
その目はニコニコと笑っていて、
「フフ、嬉しいな」
と笑いかけられた。
「ね、キスしていい?」
やたらと甘えるような声で言われる
「えっそれは…」
「返事は聞かないけど」
という声とともに唇が重なった。

幸村君とのキスは好きだ。
言葉とは裏腹に優しくて、あったかくて、好きだ。
ちゅ、と唇が離れる、とともにまた抱きしめられた

「っ〜〜!!もうかわいい!!さくらは!!」
「わっ」
ぎゅ〜っとまた抱きしめられて、更に顔中にキスされる。
「え、怒ってないの?」
「なんで怒るんだよ。むしろ可愛い!俺の彼女は可愛い!!」
キスの合間に顔を見るとデレデレと顔がゆるんでいる幸村がいた。
「もう、食べちゃいたい…!」
そう言って熱っぽく見つめる幸村、だったが

ガチャ
「幸村いったい何があったのだ…」
帰ってこない幸村を心配したのだろう真田が入ってきた。
「っ!!お前たちっ何をしとるかーーー!!」
そして目に飛び込んできたのがいちゃついている私たち。
「たるんどる!!」
お決まりのセリフで私たちを怒る真田。
「真田ぁ、お前って奴は…」
怒ってる、この声はかなり怒っている…!
抱きしめられていていまいち顔は見れないけど、ドス黒いオーラは見える!!
「フッ真田ぁ少し打ち合い手伝ってくれる?」
「ああ!打ち合いとて手加減せんぞ!!」
「ああ、俺もだよ」

クスリ、と笑って二人で出て行った。
真田…死なないでよ…、そう思ってると不意に幸村がこっちに振り向いて、
「さくら、今日は一緒に帰ろうね」
にこり、と笑って扉を閉めて行った。

なんだかんだありましたが、一件落着ということで。…真田以外。


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