07
「燈ちゃん、」
お兄ちゃんが部屋に入ってくる。
「お兄ちゃん…。私、もう、ダメだよ…」
顔を見たら、涙が溢れてきた。
お兄ちゃんは、そっと抱きしめてくれた。
「家出…?」
お兄ちゃんの発した言葉にハッとする。
たった今、私が考えていた事だったから。
この家に、私の居場所はない。
私だってもう二十歳なんだ。
いつまでもこの家にいなきゃいけない理由はない。
「…うん、そうするよ。」
そう言うと、お兄ちゃんが私の腕を掴んだ。
「僕も…、行くよ。」
「え?」
「燈ちゃん…一人に、させたく、ない。」
「…うん、ちょっと待ってね。」
必要最低限のもの…と考えて、財布を手に取る。
そして、?宝物?を置いていた棚に近づく。
兄弟で撮った集合写真の隣に置いてある、私とお兄ちゃんのツーショット写真の入ったペンダントを取った。
私の、唯一の血の繋がった兄弟の写真。
これだけは、手放すなど考えられなかった。
それから、兄弟の集合写真を下の段に移す。
ここに写っている彼らは、もういないのだから。
「お兄ちゃん、行こっか。」
「、うん。」
2人で、黙ったままマンションを出た。
黙ったまま歩き続ける。
どこへ向かっているんだろう。
やがて、どこかの橋の上に着いた。
どこかなんてわからない。
「…水キレイ。」
「うん。」
「深いのかな。」
「僕、水は、苦手…。」
「そっか。」
「星、キレイ。」
「そうだね。」
頭上を覆う、一面の星空。
久しぶりに空なんか見上げたなぁ。
「燈ちゃん、無理、しないで…」
「え?」
「泣いて、いいんだよ。」
お兄ちゃんが私のことを抱きしめる。
不意に、私の頬を涙が伝う。
そこから、堰を切ったように泣き出した。
「私ねっ、怖かった、のっ、みんなが、私のっ、事っ…」
お兄ちゃんの腕がきつくなる。
「僕は、ここに、いる。燈ちゃんの隣に、いるよ。」
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