05
「絵麻ちゃん、夕食作るの手伝うよ!」
「ありがとうございます!」
今日は絵麻ちゃんの手伝い!
あ、京兄もいるんだけど、今ちょっと離れてるの。
今日は珍しく兄弟がほとんどリビングに揃ってる。
風君もだよ!?
ホストはいないけど、それは嬉しい限りだ。
ちょっと浮かれていたのが悪かったのかもしれない。
「きゃっ、」
絵麻ちゃんの悲鳴に手元を見ると、絵麻ちゃんの腕から血が出ていた。
置いてあった包丁に私の腕があたって、それが回転して絵麻ちゃんにあたったようだ。
出血も、そこまで酷くない。
「ごめ、「どうしたんですか!?」
「ちょっと包丁が当たっちゃったみたいで…」
「燈!!」
すっ飛んできた京兄が、今まで見たこともないような鋭い目を向けてくる。
「一体何を考えているんですか!?」
やっと分かった。
京兄は、私が絵麻ちゃんを傷つけたと思ってるんだ。
「あのっ、そうじゃなくって、」
「何どーしたのー、って大丈夫!?」
「どうしたんだよソレ!!」
絵麻ちゃんを遮ってどんどん人が集まる。
直感的に悟った。
私、悪役だ。
「どうしてあんな事をしたのですか?」
京兄の言葉が怒気を帯びている。
それは、周りのみんなの目もそうだった。
「私の腕が包丁にあたっちゃって、それが絵麻ちゃんの腕に、」
「言い訳しか出来ないのですか。」
とにかく視線が突き刺さる。
お兄ちゃんと目が合う。
…大丈夫、お兄ちゃんは分かってくれてる。
根拠はないけど、そう思った。
「燈、妹を怪我させておいてそれはないと思うよ。」
絵麻ちゃんの怪我の手当をしていた雅兄が静かに言う。
今までに聞いたことのない声だった。
「そうだよ、悪いと思ってんのかよ!?」
「言い訳は見苦しいよ。」
「正直に話してくれないかな。」
「そーゆー人だったんだ?」
「なんか言えよ。」
なんで、こんな日に限って全員揃ってるんだろ。
10人の視線に耐えられなくなって、キッチンをするりと抜けてエレベーターに乗った。
つーちゃんの隣を抜ける時、そっと言われた言葉。
「元々他人だもんな。」
それは、兄弟というつながりをいとも簡単に壊してしまう言葉だった。
…思い出すと涙が滲んでくる。
必死にこらえてエレベーターを降りて、自室へと向かう。
「りーちゃん、なんかあった?」
なんでこんな時にこいつに会うんだ。
「うるさいホスト。」
「…。(何かあったな)」
避けるようにして自室に入った。
鍵を掛けて、ベッドの横に座り込む。
私なんか、どうでも良かったんだ。
絵麻ちゃんが来たら、私なんていなくていいんだ。
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