永遠に繋がる


「宮城へ行かれるのですか、今から?」

凰晄が眉を顰めるが皇毅は淡々と頷いて、適当に身体の灰を払いのけ官服を羽織る。

「刑部尚書、来俊臣殿に会いに行く。この見合いの揉め事を御史台で立件する馬鹿はいないだろう。どう見ても民事、三の姫側が訴え出るなら刑部だ」

「しかし、もう日も暮れました。明日になさい」

凰晄は引き出しから通行印を出すが、中々渡そうとしない。
そんな姿を見て皇毅は一笑した。

「日が暮れたから行くんだ。それに実害を被ったのは私なのだから有利なのは此方だ。心配するな」

「そういう心配ではなく……」

凰晄は額に手を当てて溜め息を吐く。
二人が室から回廊に出ると家人達が皇毅の様子を心配そうな面持ちで窺っているのが目に入った。
皇毅が家人達のもとへ行き、心配かけたなと詫びをいれると侍女や男衆達も「当主様がご無事で何よりだ」と落ち着きを取り戻し始めた。

「凰晄、玉蓮が湯浴みから戻ったら呼んで来てくれ。宮城に連れていく」

凰晄は皇毅の考えなど知るか、という様に首を横に振る。

「どこまで唯我独尊貫いてるのですか貴方は。迷惑です。行きたければ一人で行きなさい」

凰晄にとっては玉蓮は最早大切な葵家の嫁候補。
悪戯に宮城になど出せるかと命を却下した。

しかし、お前が連れて来ないなら私が連れて行くとでも言うように、皇毅はすたすたと湯場へ向かって行った。

皇毅が向かって来ているなどは露とも思わず、湯場では髪まで洗って気分もすっきりした玉蓮が嬉しそうに髪を拭いていた。

足の先まで温まり少し火照った身体を冷ます為に脱衣場の扉を開けてみる。
とても気分が良くなってしまい注意力散漫、かなり不用意な行為だった。


「……えっ」

「………」

扉の対側には皇毅が立っていた。

(なん、で……?)

まだ白い下衣しか着ていないのに後宮の浴場にいる気分で扉を開けてしまった自分のせいなのだが、こんな事あんまりだ。

「すい、ません……直ぐに空けます」

涙目になるが、なけなしの思考で皇毅が湯の順番待ちをしているのだと思い、小さな声で詫びてパタンと力無く扉を閉めた。

皇毅の方は玉蓮の言葉などまるで耳に入ってなどいなかった。

一応白い下衣を着ていたが、汗でしっとりしている身体の線は浮き彫りになって、程よく火照る姿は扇情的としか表現出来なかった。

(いつも地味な癖に……クソッ)

皇毅もまた熱を冷ましに一旦自室に戻らざるを得なくなり、仕方無くその場を去って行った。




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