闇夜の龍笛


涙を拭いながら恥ずかしそうに掛布に包まる玉蓮の様子を静かに眺めていた皇毅だったが、ふと何かに気が付いた様子で仮眠室の外に目を向け出ていってしまった。

「大夫様……?」

玉蓮は何も言わずに去ってしまう皇毅の背を目で追ったが、室の扉は閉められてしまった。

皇毅がいなくなってしまうと、暗い室の中が急に心細い場所に感じ辺りを見回しながら起き上がってみる。

すると自分の上衣の帯が少しだけ緩められている事に気がついた。
年頃の娘なら気絶している間に不埒な行為をされたのではと青くなるところだが、皇毅が帯を緩め胃の腑を楽にしてくれたのだと直ぐに分かった。

(優しい方……)

玉蓮は出ていってしまった皇毅を追って室の扉の前に立つとこっそり室の外を覗いてみる。

室の外は明るくまた何処かの室へと続いているようだった。
灯りの向こうからは今出ていってしまった皇毅の声が聞こえて来る。

見ると外の室はどこか見覚えがある気がする。
玉蓮はハッと思い出した。此処は皇毅の執務室である長官室だ。
初日に秀麗に連れられて入った側とは逆側から見ているようだ。

皇毅は長官室の大机案に座し、略式の礼をとって対に控える御史に指示を出していた。玉蓮は少しだけ開けた扉をゆっくりと閉める事にする。
この室は御史の仮眠室ではなく御史大夫専用の仮眠室に違いない。
そこから女が転がり出てきては皇毅の体面に傷がつく事は明白だと感じ、暗がりの室に戻り大人しく待っている事にした。

今は一体如何程の刻だろうか、もしかしたら既に真夜中なのではないだろうか。
邸に帰らなくてはならない。
深夜の一人歩きは怖かったが軒を呼べるだけの銭は持ち合わせていないので怖くても歩いて帰るしかなかった。

帰ったら義父にどう話そうかと考えていると、再び仮眠室の扉が開いた。

「待たせたな、起き上がっていいのか」

「はい、ただの貧血だと思いますのでもう大丈夫でございます。その、お仕事中にご迷惑をお掛け致しました」

「医者の不養生だな」

皇毅は今度こそピシャリと言い放ち馬鹿にしたようにほくそ笑む。

馬鹿にされた玉蓮は厭味が全く通じてないようなポカンとした顔でやはり目を離さずに皇毅を見ていた。

全く厭味が伝わらないと皇毅のこめかみにピシリと筋が入る。玉蓮と話していると熟く調子が狂う気がしてならない。




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