奈落の底で


どれくらい刻が過ぎただろう、玉蓮は一人静かに目を覚ました。

自分は何処かに横になっているのだと分かったが、見渡しても周りは漆黒の闇だった。

自室ではない場所でどうして寝ているのかしら、と思いを巡らせてみれば室の暖かさに反して体が冷えてゆく。

お前には既に監察御史がついている。
そう御史大夫から暗に告げられ、それを聞いて驚き倒れてしまったのだ。
もうそこで自分の悪事を認めてしまったようなものだった。

考えるのも嫌になり再び目を閉じたが、暗い室の扉が開いた様な気がして再び目を開けゆっくりとそちらに顔を向ける。

室の扉から入って来たのは今一番会いたくはない人物だった。皇毅は玉蓮の側まで静かに歩いて来ると「目を覚ましたか」と声をかけ見下ろしている。

皇毅を見て起き上がろうとする玉蓮を制止して簡易的な寝台の横に椅子をひき、腕を組んで腰を掛けた。

玉蓮も暗がりに目が慣れてきたのか段々と皇毅の姿が見えてくる。
心配してますとも馬鹿にしてますとも分からない無表情。

しかし、玉蓮の胸に何故だかまた安心感が芽生えてきた。この不思議な感覚の正体が分からず長い睫毛をパチパチさせながら皇毅を見ていた。

皇毅も無表情なまま玉蓮を凝視していた。
大抵自分と目を合わせた人間は、怯えて目を逸らすか泳がせるかだった。
なのにこの娘は初めて会った時から目が合うと更に見つめて来た。

根性があるようでないようで、そんな玉蓮を面白い女だと思っていた。
監察御史から素性と大体の身の上は聞いていたが、会ってみるまで全く興味はなかった。
つまらない案件のつまらないオマケの女。
案件担当の監察御史が泳がせてみますと言わなければ入城させなどしなかった。

しかし今となっては迷っている。
案件が片付けばこの女がどうなるかは大体読めた。
主は流刑が妥当で家門は潰される。
するとどうなるか−−−。

「あ、あの」

玉蓮が遠慮がちに口を開いた。

「なんだ」

「こちらは、一体何処でしょうか……」

不安そうに見渡す玉蓮に、御史の仮眠室だと答えてやる。

玉蓮は安心したように溜め息を吐いた。

「よかった……私、奈落の底かと思いました」

思いがけない事を言われ皇毅はクッと笑みを洩らしてしまう。それが意地悪な笑いに見えたのか玉蓮は眉を下げた。




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