奈落の底で


「お前は奈落の底にこんな快適な寝床があるとでも思ってるのか」

「いえ、すいません」

冗談めいた事を真面目に話す皇毅の口調に、何故だかまた癒されてしまう自分が恥ずかしくて顔を背ける。

「私、申し訳ありません……大夫様には、ご迷惑をおかけ致しました」

情けなく倒れた自分を皇毅が此処まで運んで寝かせてくれたのかもしれないと思い出した。
声が消え入りそうな程小さくなってしまう。

顔も更に熱くなるのを感じて、暗がりで良かったと感謝した。情けない自分をこの人はどう思っているのだろうと考えると恥ずかしくて仕方ない。

皇毅は腕組みし、そのまま沈黙していたがやがて静かに口を開いた。

「先程の話の続きだが」

玉蓮はそれを聞いてハッとして耳を塞ぎたくなった。
先程の話とはまさか、しかし自分を心配してではなくその話をする為に、皇毅はここにいるのだと頭の片隅で理解していた。

「さき……先程の、話とは」

「出頭しろ」

皇毅は結論だけを伝えた。酷くそっけない結論だった。

「既にお前の目的も素性も知れている。潔く出頭しろ」

皇毅の言葉が胸に重く圧し掛かって来る。
もうどうなってしまうか分かっていた筈なのに、いざ突きつけられると次の言葉が中々出て来ない。
しかし今更、何の事でございましょうとシラを切る気にもなれなかった。
玉蓮はもうこれ以上自分の無様な姿など見せたくなかった。

「私が出頭すると、どうなるのでしょうか」

頭の悪い質問だと分かっていたが力無く聞いてみた。

皇毅はまた一拍程置いてから質問に答えてくれた。

「出頭し、あらいざらい吐けばお前にだけは恩赦が下る」

「えっ?」

思ってもみなかった答えに玉蓮は皇毅に目を向けた。しかし無表情な皇毅からはその言葉の本意は分からなかった。本当にそうなのか、それとも律に疎い自分は皇毅の口約束に騙されそうになっているだけなのか。

「お前にはまだ具体的な罪状がない。未遂の件に関しては脅されていたと言えばいい」

「それは、一体」

「お前が白旗上げて自白すれば、罪状になる残りの証拠集めの手間も省け、御史台の経費削減、強いてはこの国の、主上の御為ともなるだろう」

皇毅は劉輝の為に働いた事など心の底から一度も無かったが、玉蓮の感情を動かす琴線を弾く言葉になるかもしれないと一応口先だけ並べてみた。




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