後宮の兵法
皇毅の謎掛けのような言葉に玉蓮は暫し黙考する。
凰晄の命令には確かに些か違和感を感じていた。三の姫との見合いを台無しにした玉蓮を再び見合い相手に引き合わせるだろうか。それが腑に落ちないのだ。
違和感の正体がわかるのならば教えて欲しいけれど……。
黙ったまま考え込む姿に皇毅の方が痺れをきらす。
別にもったい付けて言うほどの内容では無いからだ。
「その娘達は貴族派から推薦する王の妃候補だ」
「………え、?」
何を勘違いしているんだと言いたげな指先を向けられる。
しかし言われた事が理解出来なかった。
「王……って、紫劉輝様……の事ですか?」
「他にいるのか」
素っ気ない返事だか皇毅とて知っているはずなのに、秀麗を待ち続け他の妃候補を寄せ付けない劉輝に妃候補を出すなんて。
「主上は秀麗様をずっと想っていらっしゃいます。お妃候補をたてるなど、お怒りをかうだけではありませんか」
その至極真面目な主張に対し、皇毅はあざ笑っている様な声色で答えた。
「あれは紅家から選出された妃候補でしかない。近々藍家からも選出があるとの情報がある。貴族派からも出して当然だろうが。王家にとっては妃も政治の一貫でしかない。それくらい分かるだろう」
「でも……主上はとても純粋な方で…」
俯く姿に今度は皇毅が苛々しだす。
自分の妃候補でなくて心底安堵する顔でも見られるのかと思いきや、劉輝と秀麗の心配をし出している。
これでは教えてやった甲斐がないではないか。
腹いせに壁をドン、と拳で叩いてみると壁の反対側で何かが落ちたような音がした。
ついでに『ぎゃあ』と聞こえた気もする。反対側で侍女が聞き耳を立てていたに違いない。
壁に貼り付く侍女を粛々と排除する皇毅の横で全然気が付かないで考え込む玉蓮だが、ようやく本筋を思い出した。
「では凰晄様はどうして皇毅様の奥様だと仰ったのでしょうか」
「うむ…」
確かにそれが分からない。
彼女がする嫌がらせにしては単純過ぎるような気がする。
「その目論見を探る為にもとりあえず騙された振りをして旺邸へ行ってみろ。妃候補の素養をみる者は王宮から来るのでお前は適当に世話をしていればいい。暫くしたら私も伺ってみるからそう心配するな」
「……あの、私、実は皇毅様にも騙されてやしませんか?本当は私……私が主上のお妃候補なのでは!?」
「何、!?」
誰が、誰の……?
皇毅とついでにしつこく壁に貼り付いていた侍女は固まった。
「そんな…嫌です…絶対に」
反対側の壁に貼り付いていた侍女は急いで布団にくるまった。壁際でお腹抱えて爆笑する所だった。危機一髪。
「………。」
皇毅も心の中では大爆笑だったが、もはやまるで信頼されていない事実には笑えなかった。
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