後宮の兵法


この愚か者に『全然違う』と理解させるにはどうすれば良いのだろうか。

(愛する者を他の男に差し出す訳ないだろう。……などと説いても無駄か)

そう、おそらく無駄骨。
一度裏切った男をそう簡単に信じる訳ないがない。仕方なくすっかり捻くれて戻ってきた玉蓮でも納得出来そうな理由を突きつける。

「お前、年はいくつだったか」

「二十三歳になります。それがなにか?」

「そんな嫁ぎ遅れた者を貴族派の妃候補として出すわけ無いだろう」

……。

……。

なにかが地の底へ転がり堕ちてゆく音が聞こえてくる。
しかし嘘は言っていない。
当代嫁ぐに適した妙齢は十六歳から十七歳程なのだ。けれど言ってはいけない事を言ってしまった

……ような気がする。

皇毅は女性に対してここまで失礼な事をいう男では無かったのに、どうしてこんな事に。

「妙な野望は持たぬ事だ」

だめ押しが投下されるとコクン、と頷かれた。

「ですよね……妄言を申しました」

どうやら誤解だと納得させる事は出来た様だが本当にこれで良かったのだろうか。

ぺこり、と頭を下げると玉蓮は無言で布団にくるまって繭のように動かなくなった。
皇毅は暫くその様子を眺めていたが徐に立ち上がると繭の布団をそのまま抱えて扉を開けた。

担がれた繭は『なにするんですか!』と、活きの良い海老のごとく暴れ出したが、そんな事構わずゆったりと回廊を進む。

王の妃にのし上がってやろうなど、彼女にはそんな野望などまるで持っていない事は分かっていた。
ごめんなさいが言えない皇毅は代わりに精一杯の言葉をかける。

「嫁ぎ遅れてはいるが、私とて妻を娶り損なっている。お互い似た者同士だな」

海老反りしていた布団が静かになった。
全然謝罪になってはいないがどうやら皇毅の話に聞き耳を立てているようだった。

「じきに庭には紅梅が咲くだろう。白銀に咲く紅梅はとても美しいぞ」

回廊を歩きながら冬を迎えすっかり枯れてしまった庭の草木の事や吊り灯籠の灯りの話など、皇毅は他愛のない話を続けたが、玉蓮は温和しくその話を聞いていた。

東偏殿から皇毅の住まう西へ移動すると途端に足場が悪くなる。修繕せねばと考えながら室へ入ると火桶に炭が入っており室内は暖かかった。
抱えていた布団を寝台へ放り投げると悲しげな悲鳴が布団から聞こえてくる。

布団からにょきり顔が生えて皇毅を睨みつけてきた。

「重かったでしょうに」

「重くはないが簀巻きの中身を落っことさぬよう気を使った。疲れているというのに一体何をしているのだろうな」

臥台に座り背もたれに寄りかかると玉蓮は瞳をこぼれんばかりに丸くして布団から転がり出てきた。



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