医女妻と高官


冬の寒昊の下で嬉しそうに微笑む玉蓮の口から白くなった吐息が舞う。

美しいものは春の昊が似合う。
極寒の下で出会い、離れれば命が散ってしまうかもしれない、今はそんな昊の下だった。

「女人が出歩くには厳しい寒さだろうに、甘味屋まで歩けるのか」

問い掛けにコクリ、と頷く。

「皇毅様が一緒に来てくだされば私どこまでも行けます」

真面目な答えが壮大だったのか、皇毅は眉を上げ何か考えている様だった。
やんわり断られているのではないかと心配になり眉を下げる。

忙しいのは分かっている。
そして自分は皇毅の進む道に突然入ってきた不協和音なことも。

排除しようと現れた狐の面を被る凌晏樹の姿が過ぎった。

飛燕姫を最愛とする皇毅の一番にはなれない。
でも、それでもいいと思ったから一緒にいる。

少し考えていた皇毅は顔を上げた。

「ではお嬢様の奢りならば付いて行くとしよう」

「え、」

−−−−奢り?

悋気で顔がくしゃくしゃになっており、ふいの返答に驚いた。
その顔を見て護衛気取りは続ける。

「銭袋を忘れてきた。お嬢様は邸で出した給金を持ってきているだろう、それで払うのならば付いていくと言っている」

「………まぁ、大変」

ごそごそ、と小袋を開いて中身を確認した。
少しの銭が入っているがしるこ二人分と席料で足りるだろうか。
微妙な所だと小袋の紐を大事に結び直す。

「安いお店ならば…」

その言葉に玉蓮の手を取って踵を返す。
手を引かれながら、嗚呼これは甘味屋さん却下になったのねと諦念し地面を眺めながらついてゆく。

葵邸へ向かっているのだと思い何も言わずに引かれる手の方向へついて行くと「いらっしゃいませ」と声がした。

顔を上げると甘味屋の扁額が目に入る。
却下では無かったようだが、なんだか見覚えのある店名だった。

「温かい甘酒や餅の入ったしるこがおすすめですよ」

甘味屋に違いないが予定よりも随分高そうな店に入ってしまっている。
座布団の上に座ると横に火鉢まで用意されていた。

そこでようやく慌てだした。

「こ、このお店は貴族、いえ後宮の御用達の甘味屋さんです。奢るどころか一人分も払えません!出ましょう」

出ましょうと言っているのに、皇毅は出された茶を啜っている。

席料が……!

「出るのにお茶飲んじゃ駄目じゃないですか!官吏様が無銭飲食などあってはなりません…!」

玉蓮は自分の分の湯飲みを手に持ち中身をもう一方へ継ぎ足す。

「お前何やっている」

「店を出るのに飲んじゃうからじゃないですか!私の分を少し足して、飲んでない体にして……出ましょう。私が謝ります」

堪えられず皇毅はくつくつと嗤いだした。





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