お嬢様と護衛


金持ってそうな貴族の男は露天商のお品もの自慢話を一応聞いている体だったが、実際は全然聞いていなかった。

「いい品なのは分かった」

「ご執心の美姫にぴったりの簪と扇と沓でございます。露天にこそ珍しく貴重なものが隠されておりまして、師(先生)からの贈り物として相応しい秘蔵の品でございます〜!!是非お目通しください」

貴重なのはいいとして、いつの間にか三点抱き合わせになっていた。

「露天商」

「はい?」

「客の品定めするのは勝手だが、目玉洗って出直してこい。私はお嬢様の護衛だ」

「は、お嬢様の護衛!?」

露天商の常識の天地がひっくり返る。
後ろの美人が貴族のお嬢様で横の男が護衛だと!?
確かに男は腰に険を吊り下げている。

皇毅は後ろで小さくなっている玉蓮に目を向けた。

「お嬢様、この無礼な露天商をたたっ切りましょうか。おそらくヤクザも真っ青な旦那様が余裕で揉み消してくださいますよ」

「ちょちょ、ちょっとその冗談はあまりにもご無体でございます〜!!お嬢様大変失礼致しました、お許しください!!この護衛の冗談に免じてご容赦ください、ご容赦ください!!」

周りの露天商達は物騒な物言いに通報するどころか顛末が面白すぎてニヤニヤしているだけだった。

「お嬢様どうしますか」

大げさにひれ伏す露天商と皇毅を交互に見る。
皇毅の左手は剣の柄に添えられており、それを横目で確認した露天商は冗談ではなかったらどうしようと恐れおののき頭を地面に擦り付ける。

「私は…その、甘味屋でおしるこが飲んでみたいです」

「そうですか。長々とお忍びに付き合う訳にも参りませんが、しるこ…くらいならお供致します」

芝居をうつ皇毅はここでしまったと思う。
流れでしるこ飲みに付き合う羽目になってしまったかもしれない。

「本当ですか!?行ってみたい甘味屋さんがありまして」

「お嬢様ぁぁ〜〜この老いぼれにご容赦ありがとうございます〜〜!!露天組合で、し、しるこ割引券がございますのでどうぞどうぞお持ちください」

そんなものがあるのかと護衛の振りした皇毅は露天商の手からしるこ割引券を奪い取った。
しるこ屋に付き合う事が濃厚になってきた。

「一緒におしるこ屋に行けるなんて夢みたいです」

玉蓮は露天商に貶められた事はしるこで帳消しになったようだった。

「それは良かった……ですね…」

辛うじて敬語を保つ。
いつまで芝居を続けていればいいんだと皇毅は玉蓮の腕を引いてその場を後にした。

二人に去られた露天商は姿が消えるのを確認した後地団駄踏んで悪態の限りを尽くし、近くに露天を構える店主達は笑いを堪えながらその様を眺めつつ、自分の所にきたら同じ顛末だった、危なかったと合掌した。

貴族の男と浮気相手の愛人でもなく、貴族のお嬢様と護衛でもなく、ただの夫婦な皇毅と玉蓮は露天からだいぶ離れた所まで来て芝居を終わりにした。

「皇毅様…もしや私を守ってくださったのですか?」

「お前を馬鹿にする事は私を馬鹿にすると同じだ」

矜恃が高い発言だが、それだけではない。
肝心なところで前に出てくれた。

「私は、装身具よりも…今の言葉が一番嬉しいです」

皇毅の脳裏に先ほどの薬材店の奥さんの言葉が蘇る。『言葉で言わないと伝わらない』

彼女が喜ぶものは高価な装身具などではないのだろう。

「玉蓮…」

「では、おしるこ飲みに甘味屋さんへ参りましょうか!」

「……」

皇城へ行くと言いそびれた。





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